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「天野彰のいい家いい家族」

京都で“古さの味わい”patinaを思う

2007年07月29日

 一年の二十四節気の一つで夏の盛りの大暑を迎えるころ……、今年は23日でしたが、私の大好きな季節となります。じめじめとしてうっとうしい梅雨が終わって暑いけれど気持ちの良い夏らしい夏となります。それが今年はなぜか世相のようにだらだらと梅雨が続き、しゃきっとした夏にはなりませんが……。

写真はじめて設計した臼杵市のK邸外観と断面図
写真路地の山の傍らに開放展示される家と数々のお宝
写真ぎしぎしと揺れながら多くの人を乗せ大路を練り歩く鉾

 しかしそんな夏でも時は移ろい、各地で夏祭りや花火大会が行われます。中でも京都三大祭りの一つの祇園祭は7月いっぱいかけて行われ、14〜16日は祇園囃子(ばやし)と山鉾(やまぼこ)の竿灯提灯(ようちん)が点灯し宵々山、宵山と続き、町中が夜な夜な熱気に包まれます。そして17日の四条、河原町、御池にかけての山鉾巡行が最大の圧巻となり胸がわくわくします。

 その後の23日は水の都大阪の天神祭で、船渡御(ふなとぎょ)の日は川を100隻ほどの渡御船団が、古式ゆかしく飾りつけされた船上で神楽や舞を演じ、夕闇にはかがり火をともして進む華麗な絵巻祭りが行われ、これも浪花の夏の風物詩です。

 愛知は岡崎市の生まれで京都や大阪とは縁の薄い私なのですが、祭りや花火の多い街で生まれたせいか、祭りや花火、ついでに桜好きで “寅さん”ではないのですが、なぜかこうして「祭り」と聞くと、私の心は各地を転々と渡り歩きたがるのです。

 自分でもちょっと変なのかも知れないと思うのですが、なぜか身体の芯から血が騒ぐのですから仕方ありません。たぶんそこには日本人として、大地とその奥に営々と続く血脈が騒ぐと言うか、祭りという生きた伝統行事に、日ごろ外国人のような、あるいは無国籍のような生活から一瞬解き放され、自分がまるで地からわき出たゾンビのようにちまたをさまよう感じになるのです。

 うれしいことに周りの人々も、老いも若きも皆、浴衣掛けや法被の“日本人”となり、それがその場の情景に同化するように溶け込み、背景は近代建築の続く四条大路も、超高層のビルが立ち並ぶ川岸もその瞬間、すべてがフェイドアウトして街が祭りや花火のシーンだけとなるから不思議です。

 長年家づくりをして来ていつも気になるのがこのことです。設備は電化され、冷暖房され、IT化され、さらに新しいデザインや建材や工法があふれる中、あえて営々と続く私たちの住む家の本質は今も何も変わっていないと思うのです。私は運よくか、あるいは運悪くか、45年も前になる最初の家の設計が九州大分の古都臼杵の木造K邸で、当時としてはデザインを近代的にしたにもかかわらず、その施工は街の古い大工さんに頼み、その棟梁(とうりょう)から木造建築の本質をたたき込まれたのです。以来その伝統工法とその合理性にほれ、それは今もなお続くのです。

 残念なことに阪神大震災のときも、そしてまたこの中越沖地震でも古い木造の建物が多く倒れ、その矢面に立たされていますが、当然のことに木造の家はその数が圧倒的に多いことと、しかもその多くは核家族化からか、まったく手を入れられていないことを忘れてはなりません。反対によく手入れされた多くの古い木造が地震や台風や大雪にさらされてもびくともせず何百年も建って、今も住み続けられ、その古さの味わいと重厚さから現代の人々に安らぎと癒やしさえも与えているのです。むしろ近年、強度では勝るはずの鉄や合板による、かっちりとした新しい工法や免震の家が、その耐力を保ち続け、そんな“古い味わい”の家になるかと言う疑問さえあるのです。

 今年も祇園祭の宵山、そして山鉾の巡行の中に居て、何百年と続く家々の重厚さと手入れされ大切に守られて来た、そのお宝の展示を見て改めて “古さの味わい”を意味するpatinaの一言を思い出すのです。そしてさらに翌朝、ぎしぎしと音を立てて揺れながら、何十人もの人を乗せて町を練り歩く3階建て以上の高さの鉾が、白川郷の合掌造りと同じ、木の仕口と縄だけで縛られた吸震構造であることを思うと、改めてわが国の伝統技術のすごさと、その耐震構造の合理性に安堵(あんど)さえ覚えるのです。

 次回はこの“古さの味わい”patinaをどう創るかについてお話ししたいと思います。

プロフィール

顔写真 天野彰(あまの・あきら)

 岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1-5-1/TEL03-3469-1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国に精力的に行っている。その実業務からTV・新聞・雑誌などで広く発言。元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任する。

 著書には、新刊『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数がある。

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