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「天野彰のいい家いい家族」

60歳から家を建てると若くなる?(1)

2007年09月16日

 家を建てることは大変な労力が必要です。とくに若いときや、初めてのときは家づくりのコツや要領がつかめないこと、自身の人生経験不足などから、随分苦労を強いられることもあります。反面、子育てが中心であり、彼らの成長を考えると間取りは案外簡単に決まるものです。

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Yさんの実家の建て替え、むくり屋根の日本家屋平屋

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大黒柱のある昔ながらのシンプルな田の字プランの家

グラフ

一戸建てを建てるとしたら何構造が良いですか?

 予算もローンの制限もあり、日常も忙しくて余り時間もかけられず、そこそこの家でも満足し、こだわりもさほどなかったかもしれません。しかし、子どもたちが成長して巣立った今、熟年の夫婦二人となって家を思うとき、その様子はちょっと違ってきます。あちこちに不都合がでてきて、冷暖房や水回りの設備も悪くなります。家はまるで子育ての巣のようであり、子育ての残骸(ざんがい)のような感じさえします。

 さあ、そこで、この家をリフォームしようとか、建て替えしようと思います。すると子どもがいない今、いったい何を中心にプランニングをしたらよいのか分かりません。そう、夫婦二人のプランづくりは意外と大変です。互いの趣味も多く、嗜好も贅沢になり、妻の要望や要求も半端ではありません。夫婦だけの住まいプランは、いったいどうつくればよいのか、皆目見当がつきません。何でも出来てしまいそうで、逆に難しく思えます。二人だけの生活ですから、あまり広いスペースも必要ありません。

 しかも、さほど古くなってもいない家を壊してまで建て替えたらいいのか、あるいは今の構造を生かしてリフォームした方がよいのかも迷います。と、あれこれ考えている間に双方の親の介護に追われたり、経済力も気力・体力も減退したり。なにもせずに子どもの抜け殻のような家で過ごし、気付いたら夫が病に倒れるようなことになると、結局そのままになってしまいます。

 そうなる前に、長い「老いの人生」のための拠点をつくりましょう。古ぼけた家のためではありません。雨漏りとか、地震に不安だからでもありません。「子育て」のためのままの家にいると、家と同じように、自分自身も古ぼけ、「子育ての残骸」のような人生になってしまいます。

 家づくりのテーマを改めて考えてみましょう。かつてこのコラムで「一戸建てを建てるとしたら……」と、家の構造の好みを聞いたことがあります。すると、グラフのように木造が72%と圧倒的に多いことが分かりました。S造(スチール・フレーム)の鉄骨造が14%、RC造の鉄筋コンクリート造が9%と意外と少ないのです。現在、コンクリートのマンションに住んでいる人、プレハブ住宅やツーバイフォーなど壁の家に住んでいる人は、伝統工法の木造の家、あるいは室内すべてを自然素材にするなどのテーマを選ぶ傾向にあります。  

 最近よく「終の棲家」だの「終の住まい」などと言われますが、「終」とはまさしく人生最後の家です。しかし、そこに至るまでの長い人生をいかにサポートするかがテーマでなければいけません。

 何度も申し上げるとおり、老後は決して一つではありません。70歳を過ぎても元気で、かっ達なら「老前」。ちょっと不自由になってはじめて「老中」。そしていよいよ自立できなくなってはじめて「老後」を迎えます。

 「老前」をいかに長くするかを考えて、これからの人生を予測してみましょう。今の家を生半可にリフォームするよりも、土地の半分を処分して予算ゼロで建て直したり、人に貸したりすることも視野に入ります。一念発起、思い切って建て替えます。なんで今さら、とお思いになるでしょうが、どっこいこれが楽しく、また活力が沸き、若返りにつながります。

 家を建てること自体に意味があるのです。家を建てるだいご味を改めて味わいましょう。そのテーマこそ「人」です。人との交流や人を招くこと自体が楽しくなり、そのお陰で友達が増えて寂しくなくなり、連絡もついて安心です。

 「家」とはなにか? 家の存在価値、家を持ち、そこで育まれること、祖先を祭る意味を考えることにつながります。「家」の文字は屋根である「ウかんむり」の下に「豕」、すなわち亥(い)の子、「いけにえを祭るところ」とも解釈され、祖先を祭る場所となります。さらに家は「象」とも言え、 “象”徴的なものが存在する場所、すなわち崇高な「精神的な空間」でもあるのです。そこに床の間や座敷の持つ本来の意味があります。

 写真は定年退職を間近に、30年前に建てた家を大人だけの家に「減築」リフォーム(本コラム4月15日)、今まで放置されていたご主人の実家を大黒柱のある和の家に建て替え、週末住宅のように使っていらっしゃるYさんの例です。「やあー、やっと先祖の法事が出来、心の整理ができました」と、ご夫妻ともども晴れやか。まさしく人生の象徴的な家づくりでした。失礼ながら、ご夫妻とも14、5歳はお若くなられた感がします。

プロフィール

顔写真 天野彰(あまの・あきら)

 岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1-5-1/TEL03-3469-1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国に精力的に行っている。その実業務からTV・新聞・雑誌などで広く発言。元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任する。

 著書には、新刊『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数がある。

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