現在位置:asahi.com>住まい>いい家いい家族> 記事 PR 住まいの最新情報60歳から家を建てると若くなる?(2)2007年09月23日 「60歳で家を建てる」と言いますと、皆さんこぞってけげんな顔をされます。まずは「なんで?」、次に「資金は?」です。ところが実際には60歳はおろか70歳以上で建てる人も多く、中でも私がお手伝いしました最高齢は80歳をゆうに越された西宮市の堀江さんです。先般96歳でお亡くなりになられるまで、趣味のオルゴールを収集され、それらを多数修理し、保全し、ついにはその趣味が高じて多くの人に見て聴いてもらおうと、私設のオルゴール館にしようということになりました。
堀江さんはもともと、老いに備えてエレベータを設置し、浴室トイレなど水回りも広くし、段差もない“老いて”使いやすい「終(つい)のすみか」にしようと、建て替えを考えておられました。一方の私は、もとの家が大江宏氏設計による素晴らしいものであったことと、大阪市と神戸港までもが一望できる庭との調和と景観を壊したくないという意見で、プランニングの段階で真っ向から対立しました。
「私の家だから私のしたいようにしてなぜ悪い? 第一、敷地の一番いいところに建てられるのに欲のない建築家だな」とまで言われてしまいました。しかし、結局、「分かった。『狭楽し論』の天野さんだから裏庭の岩山を削って建てたらいい」ということに落ち着きました。
言われてみれば、1000坪もある苦楽園の一等地で、敷地の最北端の納屋を壊しての増築です。どこからもその建物の外観は見えず、建築家として間尺に合わない話しだったのかも知れません。しかも、御影石の山で、そこをトンネルのように苦労して掘り下げ、地下1階、地上2階のまさしく要塞のような「終のすみか」となる予定で、それが建つまで、建て主はもとの家にそのまま住み、完成後は母屋を迎賓館のようにして、上層階は子どもたちが帰って来たときの宿泊に使うことになったのです。
ここで堀江氏が言う、私の『狭楽し論』に触れておきましょう。建築家としての私はもともと、郊外や地方で外観のいい、そこそこの家を建ててきました。まさしく普通の建築家です。しかし、自分自身の家を建てるとなると、狭くてどうしようもないアパートや2DKのマンションで、まさに猫の額の土地に無理やり家族を押し込む形になりました。
私はわが家の設計では開き直って、「限られた費用で便利な都市に住みたいのなら、狭いことに変わりはない。要は『狭苦しさ』の『苦』を取りさり『楽』に、いやそれ以上に『楽しく』そう、『狭楽しく』住む。それが都市の住まいだ!」と、今までの考え方を大逆転しました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、なによりも経済コストを考えた場合、むやみに広い家にするよりも、空間を「立体」的に考え、収納や物などを徹底的に積み上げ、同じ部屋を時間や事象に合わせ「多重」に使い、生活や人生に合わせて壁で区切らず柔軟に「多様」に対応する建築を提案しました。
そこで生まれた言葉が「立体壁収納」や「可動間仕切り」。あるいは3世代からの「2世帯住宅」、家族に合わせ「増空間」できる「体育館住宅」、そして「居住のソフトウエア」や最近では増築より「減築」などで、今から30年以上も前のことになります。そして今、わが家も30年が経ち、3人の子どもを育てあげ、夫婦2人の家に戻ろうとしています。
実はこの考え方が企業の建物や工場、さらには病院などの施設づくりにも多く採用され、いまも生きた施設利用が続いています。堀江さんとの出会いから生まれたものです。
さて、その堀江さん宅ですが、裏の岩山を掘り進み、さらにその岩盤に埋まるように建つ現場を見ながら、堀江さんは「これは“いい音”がする建物になる」などと、旅をしながら世界中からオルゴールをさらに集め始めました。
「こんなに集めて、いったいどこで寝るんですか。ゆったりとしたお風呂はどうするんですか」 「いや、風呂は今のを使う。それよりあの和室を壊してもっと広くしてくれ」 「いや、あの和室こそ大江氏が力を入れたもので、この家の唯一、息をするところです。壊したくない」 口論というよりは怒鳴りあいに近い毎日でした。まるで80歳と50歳の親子げんかのようなものでした。
かくして家は出来上がり、世界有数のオルゴール収集館となりました。その後、財団法人化されて本格的な博物館に変身しました。このコラムでも何度かご紹介したお話ですが、特筆すべきは堀江氏が家を建てようと思い立ち、さらに「夢」をお持ちなってから博物館になるまで、まさに歳を経るごとに若々しくなり元気になり、さらに氏の経営する工場造りもご一緒し、失礼ながら私自身がまるで同輩の親友のようになっていったことです。 「いやー、天野さんは私のライバルだ」 人生を燃え尽きるまで「活きた」氏の最後の言葉になってしまったのですが、私にとってはとても嬉しい賛辞となりました。
そんな頼もしい人生を送る人たちを紹介し、また具体的にどう知恵を使うかをまとめて「六十歳から家を建てる」(新潮選書)を出版しました。このコラムでもご紹介した、早くに妻を亡くされ一人暮らしだったTさんの70歳以上での家づくり(2006年7月23日)をはじめ、家族の団らんの再現、妻との茶の間の再現。さらにどう資金を工面するか、など、今までの考えを切り替えて余生を「活きる」こと。物を創る発見など盛りだくさんです。ご参考になさっていただければ幸いです。 プロフィール
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