現在位置:asahi.com>住まい>いい家いい家族> 記事 PR 住まいの最新情報60歳から? “76歳”で家を建てる?2007年11月18日 「六十歳から家を建てる」(新潮選書)と言う本を書きました。エッなんで? 今さら? と言う反響が多くありました。それもそのはずで、やっとローンを払い終えこれから悠々自適の老後を過ごそうとしているさなかのことだからです。
私のお手伝いさせていただいている家づくりの建て主には60歳はもとより70歳、さらには80歳を超えて家を建てる人が多くいます。 76歳のYさんもその一人で、奥さんに先立たれ以来、長年一人暮らしを続けて来られました。男所帯ながら、炊事洗濯などすべて自分でこなし、ご本人は「まだまだ」と言う反面、遠く離れて住む子どもや孫たちはいつ何が起こっても不思議ではない年齢で気が気でなかったようです。 一方、閑静な住宅街の一戸建てに住む息子さん家族の周辺も、高齢化のせいか、あちこちに歯抜けのように空き地ができ、なんと隣接地に売り地が出たというのです。「これは!」とばかり、父親に持ちかけたところ、「君たちには一切迷惑をかけない」という条件で購入に踏み切ったとそうです。 そうして「はからずも地続きの用地ができまして……」で始まった家づくりは、拙著『二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)をお読みいただいたご子息からの問い合わせでした。いつか「親父と住もう」という、息子さん側からの要望が強そうな感じに受け取れました。実際その通りで、最初は息子さんご夫妻とお会いし、いろいろとご事情を聞き、その上でお父さんにお会いしてみると、お年よりはとても若く見え、確かに同居して世話になるなどという様子はまったくありません。 敷地は息子さんの家の路地奥で、ちょうど離れのような住まいが可能でした。南向きの東西に長い、同居も可能な増築案がイメージされたのです。ところが、かくしゃくとされたお父さんはそれには抵抗があるようで、「いや、別棟で」とあまり気乗りしない様子でした。 そこで、今までの土地を処分し、その費用で土地の購入と一戸建ての建設費をまかない、独立した家として「親父の家」を建てることになりました。初めから「炊事も洗濯もすべて独立した家」なら、という条件でしたから、まさに独立別棟です。 玄関は息子さんの家の前の路地を通って入り、玄関ホールの引き戸を開けると「両家」が接するサンルームとなっていて、ここが唯一の接点となり、互いの家の付かず離れずの干渉空間となりました。お父さんの自立生活をあえて意識したもので、1階には客間つきの吹き抜けリビングダイニングがあり、キッチンはお父さん専用で息子さんの奥さんは立ち入り禁止(?)。洗濯しかり、掃除もまたしかりです。 さらに2階は書斎兼用の寝室。2階部分だけに勾配のある天井が、おやすみになるときのお楽しみとのこと。トイレはまさしく這(は)ってでもいける、私お勧めの“水洗おまる”。トイレの中のベッドといったところです。誰にも世話になりたくないと言うお父さんもこれにはさらに気を強くされたように思えます。 寝室をあえて2階にしたのも気丈なお父さんの足腰を鍛練(?)するためのもので、階段はゆったり踊り場を二つ取り、両側の手すりで腕の力を借りてでも上り下りする。まさに家庭内リハビリです。 息子さんたちからすると、予定通り気ままに生活してもらいながら、一方で息子家族の皆がそっとお父さんを見守ることができる家になりました。 「自分が息子として離れて暮らしていた高齢の父親が、こうして至近距離に居てくれる安心感に驚く」とまでおっしゃっておられました。それが本当の子の思いかも知れません。 早々に同居などせずに、親たちも改めて自立を覚悟し、闊達(かったつ)に生きていこうとする反面、いったん足腰を痛めたり、具合でも悪くなるとたちまち生活が不自由になり、それを気遣う家族のことを考えると、そうそうわがままも言ってられなくなるときが来ます。そのときに備えたYさんの決断、自立の家のつくり方、そしていきいきとした生き方は本当に素晴らしいものでした。それが、私があえて『六十歳から家を建てる』を書くきっかけとなりました。 プロフィール
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