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「天野彰のいい家いい家族」

初心忘るべからず! 臆病な建築家誕生?

2008年01月06日

 今年は子年です。子・丑・寅……の十二支の「子」(ね)はすべての始まりで、子の刻すなわち午前0時。方位は真北。まさしく元に戻って、“初心忘るべからず”の年です。

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はじめてのK邸 風当たりが強い深い庇!

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真剣に修復工事の打ち合わせをするK氏と筆者

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修復された大きく張り出した庇、上の欄間のガラスが降って来た!

 恥ずかしながら、ここで私が初めて設計した家の大失敗をお話しましょう。台風銀座の九州で、完成したばかりの家が台風に直撃され、リビングの屋根を吹き飛ばされてしまったのです。若気の至りと言えばそれまでですが、よりによって同じ大学の写真科の友人と竣工写真を撮りに言ったその日のことなのです。

「台風一過の明日、からりと晴れた青空で撮ろう!」と休んだその夜、さほど大きそうもない台風で寝ていたのですが……。次第に恐ろしい風が吹き出し、2メートル近く張り出したリビングの庇(ひさし)がブーンとうなり出し、みしみしと家が振動し、その瞬間、頭の上の高窓のガラスが割れ、室内に風が入って屋根がめりめりと浮き始めました。

「もうだめです。逃げてください!」

 ご家族と一緒に下階のボイラー室に逃げ込みました。ボイラー用にと、コンクリート造りにしておいたため、そこが避難場所になりました。その後も頭の上でバリバリとまるで巨人に家を壊されているかのような音がし、震えながら風が治まるのを祈りました。

 やがて風が静まって明るくなり、恐る恐る階段を上って行くと、無残にもリビングの屋根がはがされ、皮肉にも台風一過の青空が見えていました。家の正面にある鷲が羽を広げたような横幅25メートルほどの一段高いリビングの屋根がめくれ上がっていました。高窓のガラスが割れて降る中、ご夫妻と3人の男のお子さんがケガもなく逃げられたことが、なによりも不幸中の幸いでした。

「台風の“玉”が通ったな?!」、「いやいや、設計者の天野さんがいるときで良かった!」、駆けつけた建て主のお父さんにそう言われ、ある種の安堵を覚えました。玉とは一種の竜巻のようなものが通ったことを言うらしく、その通りに沿って畑や草木が荒らされ、道のように跡が残っていました。

 運命のいたずらか、初めての家づくりで、しかも完成の日に“惨劇”が目の前で起こったのです。世に数多くの建築家がいれども、私ほど奇異な体験をした人はいないのではないか、と、今ではこの出来事に感謝もしています。一方、カメラマンのO君はカメラを捨てて逃げたことから、「オレはロバート・キャパにはとうていなれない」などと大いに落胆していました。

 19歳のとき、先輩の手伝いとしてはじめて建て主にお会いして設計。その設計料を元手に欧州へ貧乏旅行に行き、完成間際の秋口に帰って遭遇した恐怖の体験でした。現場に先輩も駆けつけ、計算しなおして、「設計は間違っていません」などと発言したことに普段はおとなしい建て主が、「とにかく壊れた! 計算はいいから不安を取り除いてください!」と声を荒げました。

 私は先輩に反して、効き柱と梁を昔ながらの仕口(しぐち)でつなぎ、さらに鉄骨で補強して、見た目にも頑丈にしました。さらに、自ら体験した、異常な風によるブーンと言う振動と恐怖感から、一番揚力を受ける庇に風穴を設け、いよいよとなったらその蓋が飛んで、庇への風圧の負担をなくすようにもしました。かくして私は「臆病な建築家」となったのです。

 45年経ち、今も原型のまま次男ご一家にお住まいいただいています。しかも、その修復工事が縁で「屋根を飛ばした建築家!」として、臼杵という人口3万ほどの小さな街の周辺に大小100軒近い家や建物のお手伝いをさせていただくこととなりました。運命とはかくも不思議なものです。

 限度を知らない恐るべき風の力を体験し、改めて古来からの柱と梁による伝統工法である仕口による軸組みの粘り強さと、今もその強度を減衰することなく維持していることを学びました。その後、各地で起こる地震で場所によってははるかに限度を超える揺れなどを見て、安全には安全を重ね、常に“臆病”であることを心がけています。

 若手の建築士を集め「日本住改善委員会」や「住まいと建築の健康と安全を考える会」などを組織してきました。さらに職業倫理や子どもたちの安全や奨学に奉仕するロータリークラブ(私の所属は東京世田谷南RC)や、学会や士会での活動を通じて、私の“臆病”を広めています。今は、二酸化炭素削減に向け、設計事務所としては初めて「緑の循環(SGEC)*」に所属し、放置された日本の森林を守る国産認証材利用促進を推進しています。

 次回は「家づくりは大胆な発想と細かいディテールで」というテーマです。

 *「緑の循環(SGEC)」=SGEC 『緑の循環』認証会議は、持続可能な森林経営を通じて、森林環境の保全と循環型社会の形成に貢献。

プロフィール

顔写真 天野彰(あまの・あきら)

 岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

 著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

 天野さんへのご質問、ご意見は、[天野さんのホームページ別ウインドウで開きます]から。


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