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改めて考える夫婦の家、そして寝室

2008年2月17日

 前回まで「住まいは建物ではなく居住の場」として、住まいはなにより家族の居る場所で、そこに住む人たち一人一人が住まいを動かしていく……。つまり住む人の力(ベクトル)と作用(モーメント)の姿だ、とお話しました。

 先週のコラムで模型写真「青森市社会教育福祉センター計画案(生田勉氏との共同設計)」と「UIAウイーン国際会議場コンペ応募案(1969年)」を紹介しました。前者は若者、婦人、さらには老人が敷地の四方から寄って来て真ん中のホールに集まり、コミュニケーションが“回転”する仕組みです。国連会議場の案は、世界の人々やあらゆる分野の人々の情報や知恵が回り込むようにやって来て、大きなコンベンションを回らせる。それこそ私が考える“回る建物”です。

 残念ながら、実際にはこうした公共建築の設計チャンスにはなかなか恵まれませんでしたが、私は住宅設計でこういったことを多く試みました。住む人それぞれがどう動くか、どんなドラマを展開するのか?。それが設計のスペック(仕様)となり、形になりました。家は個室や部屋の集まりではなく、もっと自由なコーナーのような、あるいは懐(ふところ)のような空間によって構成され、人の動きが何よりも優先されるものだと確信しました。

 家族の核である夫婦でさえ一つではなく、夫婦を形成する大きな要素(力)を「夫」と「妻」別々のものと考えました。その心と体の自由な動きの中で互いの最大公約数を探り出すのです。イラストは「夫の布団」と「妻のベッド」という和洋対立する希望を一つの寝室にまとめたものです。中仕切りのパーティションで時に一体に、時に別々になるように、狭いスペースを伸縮したり区切ったりさせます。夫婦は決して一つではなく、しかも夫と妻それぞれの力があって初めて回り出します。これは親と子、あるいは親夫婦と子夫婦も同じで、その個々の動きが住まいのプランに反映されます。

 こんな奥深い複雑な設計図をもとに、実際の家をつくってくれる大勢の人が居ます。規格化された家やマンションにはない、オリジナルな空間づくりをしている大工さんや職人たちが今、大変な危機に瀕しているのです。これは中小設計事務所はじめ工務店、さらにはその下で働く大工さんや左官さん。あるいは鳶(どび)やタイル職人など、もともとマクロな産業の対象とはならなかった数え切れないほどの数の職人たちが、今消えて行こうとしています。

 昨年6月の改正建築基準法の施行に伴う確認許可の滞りで半年以上も着工が遅れ、もともとわずかの蓄えしかない中小工務店や建設会社、その下請けなどの相次ぐ倒産や破産によって支払いが止まり、廃業せざるを得なくなっています。これは同時に伝統技術や文化の喪失とも言えるのです。

 一言で住宅着工件数が3割ほど減少と言っても、実際にはこれらがこうした零細工務店や名匠たちに集中していることが問題です。政府は救済処置や相談を受け付けるとは言うものの、実際の金融機関はこれらを不況業種とみなし融資を渋っています。わが国の伝統文化の最大の担い手である大工、職人たちが、皮肉にも審査強化行政のもとに消えつつあります。

 同じことは、街の小規模な病院や診療所に言えます。医療に従事する人々の悲哀も同じように聞こえます。医療行政も、大規模病院に集約する姿勢が顕著で、私たちが住む街の医療や診療産科が危機を迎えています。赤ひげ名医が減り、少子化にもかかわらず、産科も減る一方で産もうにも産めない状況です。

 夫婦の「寝室」のお話が、家づくり伝統技術の危機の話になってしまいました。「家」はもともと「戸」で囲まれた「寝る戸」で、「寝戸」すなわち「いへ」です。住まいの原点は「夫婦の寝場所」です。そこで夫婦を中心とした家族が安心して休み、子どもたちは生まれ育っていきます。そんな健康で安心して寝られる家、そして街づくりを改めて医療と建設両面で考えてもらいたいものです。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

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