2008年3月2日
白川郷の合掌づくりに見るように、親子が同居してつくる“共働”住宅。かつてのわが国の農家や商家は、親子夫婦が、あるいはその祖父母のそれぞれが互いの役割を発揮して家をつかさどってきました。若くて働けるものは働き、子育てや家事は老人たちがする……。封建社会の家の形ですが、生産型の「同居」の家でした。
現代は職場も違い、その必要もないのですが、一方で少子高齢化が極度に進み、“子育て”と両親の“老いの生活”の両面で、かつての同居の意味が見直されているとも言えます。
子どもが欲しくても、若い夫婦が子どもを育てながら安心して働ける環境がありません。年金や医療・介護の不安の中、老いの生活も保障されそうにないお粗末な現実社会です。子夫婦と親夫婦のそれぞれから同居の兆しが出ています。そんな「消極的な同居志向」の中で、安易に二世帯住宅を選択し、同じ敷地内できっちり分けて別々に住んでも、本来の同居“共働”生活とはなりません。嫁姑のどちらかにニーズも期待もなく、また自信もないのなら二世帯どころか、「スープの冷めない距離」にも住まない方が良いのです。
今回は、親子“共働”同居のべったり同居にも、1、2階がきっちり分かれた二世帯住宅にもなる不思議なマジックドアによる「二世帯“含み”住宅」を紹介します。
と言っても、何も難しいことはなく、お互いが慣れない最初は、キッチンや浴室などの設備も別々の、上下二世帯住宅として住みながら、徐々に一体同居のスタイルになっていきます。
イラストのように玄関脇か階段脇に設けられた鍵の付いたドア、すなわちマジックドアがどちらかともなく開いてそこから孫が行き来し、気付いたら一つの家になっていた! と言う不思議なドアです。
これは子夫婦が転勤などで引っ越したり、いずれ使わなくなったときなどはドアを閉めて人に貸し、子どもたちが多く出入りする時などはこのドアを閉めて迷惑にならないようにします。もちろんこのドアがあることでいつでも区切ることができるという安心感もあり、“安全弁”としての意味があります。二世帯にも一体にもなれる、すなわち二世帯“含み”です。次回は「子どもが居なくても同居住宅?」というテーマです。
岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。
「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。
著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。
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