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親子でなくても同居「賃貸契約同居」

2008年6月8日

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 親子、いや、老若が“共働”して生きていくことが、これからの少子高齢社会の姿だと思います。同居住宅を多く設計し、改めて「親子でなくとも同居すること」について真剣に考えています。

 若い力は今、定年を迎えつつある団塊の世代がそうであったように、強力な労働の担い手です。かつては企業戦士などと呼ばれ、世界に飛び出していった夫、その夫を支え、子育てを一手に請けていた妻。今は夫婦で働かなければやっていけない時代でもあります。

 彼らの最大の悩みは子育てです。そのための施設はあるにはあるのですが、仕事の事情やアクシデントで迎えに行くのが遅れたり、急に熱が出たり、けがをしたり。何よりもしつけや教育を人任せにしてしまうなど気がかりなことが多いのです。そんな中、両親に子を預けて存分に働けるなど、どれほど安心で、幸せなことか分かりません。

 同居についてよく嫁姑の確執とか、子育てに干渉されるのが迷惑などと言われ、玄関が別々で勝手気ままに住める、付かず離れずの二世帯住宅が持てはやされた時代もありました。今では専業主婦になるよりも、自分は働きに出て、できれば親に一緒に住んでもらって子どもの送り迎えをして欲しいという人が増えています。

 働く主婦は精神的なストレスも多く、職場も限られてしまうと言われます。母親が一緒に暮らしていたり、あるいは近所に住んでいるだけでどれほど働きやすいことでしょう。 私事ですが、先妻を病で亡くした経験からもこのことは察するに余りあります。二人の小学生を抱えながら現場や打ち合わせに出るなど、帰るまでわが家に何ごとも起こらないことを祈りながら働くといった毎日で、たまに地方に住む母親が出て来てくれたときの安堵と解放感は今でも夢に見るほどです。ただ、すべてに慣れない老いた母親の滞在は2、3日が限度で、その後はまた先の見えない地獄のような毎日でした。ちょっと大げさかも知れませんが、これがいつまでも続くと思うとまるで息が詰まるような気持ちになったものです。

 以来、同居住宅に住める親子はとても幸せだと思うようになりました。実際、生きていく上ではいったい何が起こるか分からないものです。親子のどちらかが大病されたり、子どもがけがしたり、あるいは子夫婦が共働きになった時など、一緒に住む“得”を実感される親子が多いようです。

 拙著「新しい二世帯「同居」住宅のつくり方」(講談社+α新書)を読まれてご賛同いただいた方から、

「私ども夫婦には子どもがいませんが、こんな同居住宅ができるといいのですが・・・」

 という相談をいただきました。とっさに答えようもなく、なんでこの本を買っていただいたのかをたずねたところ、ご主人の次の一言に私は絶句しました。

 「実は私には持病があり、妻も私も子どもはおろか身寄りもない天涯孤独。もし私に何あったら彼女は一人ぼっちになってしまうのです」

 私の事務所には、なけなしの予算で猫の額ほどの土地を購入して家を建てたいと言う若い依頼主が多くいます。たまたまそんな若夫婦の話をしたところ、「良ければ敷地の一部を譲ってそこに建てては」という話になりました。実際には、肝心の若夫婦の方がおじけてしまい、この話は不成立に終わったのですが……。

 そこで私は、二階にご夫婦が住み、階下を2、3戸の2LDKほどの賃貸マンションにして、そこを若い夫婦に貸し出すという提案をしました。アパート経営はもうたくさんと言うご夫妻に、普通の賃貸ではなく、ちゃんと面接し、さらに多少の条件を付けて保証人をたてて契約する。その代わり賃料を地域の相場の半額ほどにすると言うものでした。

 前回の例の断面図のように各戸にベルかインターフォンを付けさせてもらい緊急の場合の救助やさらには主治医のいる病院に搬送してもらうと言うものです。まさに他人の夫婦と同居するような感じです。結果、若い医師夫婦や経営者など数多くの応募があり、今も実の親子のように仲良く住んでおられます。

 「いやー、まさに『賃貸契約同居住宅』ですなー!」

 と、ご主人。安心がこうじてかとても元気に生き生きとされています。

 ややもすれば空洞化しつつある都心の住宅地も、こうすれば若い夫婦が割安に住めます。50年ほど前、私が初めて東京に出てきたときの中野の「下宿」のような、何よりも安心な同居。これこそ新しい老若のコミュニティーづくりと思い、私はこの「契約同居」の縁組を秘かに画策し、実践しています。

 次回は、いよいよ梅雨入り「わが家を守るメンテナンスのメは“目”」についてお話ししたいと思います。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

天野さんへのご質問、ご意見は天野さんのホームページから

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