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家づくり、本音のお話 その1(きっかけ)

2009年1月16日

写真家を建てる前に住んでいたマンション(右)写真マンションからの散歩道。この先の右側に敷地を見つけた写真結局、角地は買えず、路地奥の北道路の土地を購入(写真は当時のもの)

 ある日「家を建てよう!」、「この家をリフォームしよう!」と思うきっかけというのは案外単純なことが原因のようです。

 普段から、こんなところに家が建ったらいいなとか、こんな感じの家がいいなあ、などと思うことがあっても、本気でその気になっているのではありません。なかには家が好きでいろいろな雑誌や本を買ってみたり、ショールームやモデルルームにふらっと寄ってみたりもしますが、ちょっと未来のわが家を想像する程度のはずです。

 ところがそこに運よく、いや運悪く、か、熱心なセールスがいたり、期間限定の売り出しや値引きなどがあると急にその気になってしまう人も多いのです。まさに衝動買いのようなもので、何の準備もしていないわけですから、セールスの言うまま、あれよあれよという間に契約となり、建売住宅やマンションを買ってしまうことになります。数千万円以上、都心なら億もの“衝動買い”です。

 私も人ごとではありません。それまで住んでいた2LDK(いや2DK?)のマンションも手狭とはいえ、まだまだ住む気でした。ところが運命のいたずらか、散歩の途中に黒塗りの車が止まっていて、どうもその土地を案内しているような光景が目に入ったのです。そこは散歩や通勤途中でしょっちゅう見る瀟洒な家です。

「この家、いや、土地が売り出されたんですか?」

 黒塗りの車に乗り込もうとする不動産屋さんらしき人に声をかけてみると……。

「はい。あっ、いや、まだ公に広告していません。内々です」

 確かにまだ人が住んでいるような気配で、まさか売りに出されているようにはとても思えません。

「この屋敷はどなたかに丸ごとお買い求めいただきたいとのことです」

 ざっと見た感じ100坪以上はありそうで、これは大変。と、あきらめて立ち去ろうとしたその時、後部座席のご夫妻が「あのー、よろしかったらご一緒にどうですか?」と声をかけてくれました。

「ええー?」と不動産屋さんを見ると、否定する様子でもなく、さっそく彼の事務所行くことになりました。

 これが今の私の家が建つきっかけです。その後、土地が広くてとても2組では買えそうもないことが分かり、もう1組増えて、3組で三つに分けて購入することになりました。この2組の夫婦が今も両隣です。

 今から三十数年前のことで、おまけにオイルショックのさなかでとても家など建てられる環境ではありませんでした。妻には散々しかられながら、まずはなんとか土地を購入、次に家づくりのためのさらなる苦闘が始まりました。

 前回のコラムで書いたように、頭の中に描いた空想の家のスケッチやメモはあっても、実際に自分の家のための土地を購入するとなると、頭は真っ白、胸はどきどき。資金集めや価格交渉など、今まで体験したこともない問題が浮上し、根底からの苦労がはじまりました。家を建てることの大変さとともに、その歓喜が初めて分かりました。

 さらに自分や家族がそこに住むとなると、地域や街並みにも配慮した家となることも改めて実感しました。家づくりの専門家として多くの家を建ててきた体験が見事に崩れ去り、まったく違った緊張感で設計することになりました。そうすることで、土地にぴったり深く根を生やす家になることも思い知らされたものです。

 私の家づくりは、まずは妻を説得し、両親を説得、さらには銀行や金融公庫を説得することから始まりました。その間、長年にわたってため込んだ“理想の家のメモ”が心の支えとなり、また皮肉なことにそれらを次々と捨てていくことも学びました。しかし、これらの大量のメモこそ人を説得し、自分自身をも力づけるものにもなったのです。

 次回は大切な土地探しとその土地の価値判断の“内緒のお話”です。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

天野さんへのご質問、ご意見は天野さんのホームページから

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