2011年1月14日
住まいの設計はなぜか「収納!」「収納!」で始まり、文字通り「収」「納」で終わります。お陰で(?)住まいや家づくりは、いろいろなコーディネーターやアドバイザーを生み出しています。資格試験の有無やそれらの行政の所轄もいろいろですが、よく聞くのはインテリア・コーディネーターやテーブル・コーディネーター、リフォーム・コーディネーターやキッチン・コーディネーター、照明コーディネーター、それに収納コーディネーターというのまであるのです。はたまた、なんとかアドバイザーに至っては、もうその数は計り知れないのです。
が、それら収納コーディネーターなりアドバイザーなりがどう言おうとも、そしていくら収納を多く作ろうとも、住人自らが片付けようとしない限り、住まいはすっきりとキレイにはならないものです。
「収納」とはその文字の通り、「収めて、納める」ことです。つまり「いったん納めてしまうと永遠に出てこない」と言う意味もあるのです。実際に皆様のお宅もそんな感じの収納が多いのではないでしょうか?
押し入れ、納戸、床下収納、はたまた屋根裏収納と言えば、なんだか便利そうに聞こえますが…、一度は押し込んだものの、季節ごとに必ず出すひな人形やクリスマスツリーなどや、バザーや旅行など行事によるものは別として、それら以外の物はまったく記憶から消えさるってしまうのです。と、それはまあ私のことでもあるのですが…、引き出しの中や書棚のその奥の本やCDなど、どこに何をしまったかすっかり忘れてしまい、同じ物を二度も三度も購入したことがあります。特に納戸や倉庫などでは、「物の上に物を置かない」「物の前に物を置かない」ように努めることが大切なのです。
なにはともあれ、収納は物が出しやすいものでなければなりません。そのためには。物がすべて見えて、どこに何があるかを常に確認できていなければなりません。戸棚も透明なガラス戸にして、中のものがすべて見えることが理想なのですが、リビングやダイニングが繁雑となって、かえって落ち着きません。そこで中が見えない戸棚にしても開けたらすべてが見えるように大きな一枚戸にするのです。キッチンのつり戸棚も、下段の皿を一枚取り出すときにすべての棚を見渡せるようにするのです。
前回にもお話ししたように玄関の大きな“なんでも”シューズクロゼットは、一たび扉を開けると…靴やコート、あるいはストックなどなんでも丸見えとなり、常にどこに何があるかが一瞬にして掌握できます。これは他のクロゼットや納戸も同じです。既製のスチールラックのように極力透明な棚を巡らし、すべての物を展示するように“陳列”しておくのです。そのためには物が見えやすいように極力奥行きの浅い収納とし、衣類や小物は中がよく見える透明のポリケースや透明のビニールで覆ったハンガーカバーなどにするのです。
こうして玄関からトイレ、脱衣室、さらにはキッチンやリビング、書斎など、すべてのものが一目瞭然となるよう陳列をする感覚で収納を、いや“棚”を整然と配置します。収納は、住む人の生活行動に合わせることが一番なのです。言いかえれば人に生活があるように、物や収納にも生活があるのです。トイレにトイレットペーパーのストックの棚、また脱衣室にはタオル類や下着などの棚や引き出し収納などがその例です。
これなら「おーいカミ!」も、「おーいパンツ!」の緊急事態も起こらないのです。欲しいところに欲しい物、そしてそのために欲しい収納と、ドラえもんの「どこでもドア」ならぬ「どこでも収納」が理想的なのです。
岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。
「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。
著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。
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