長年住んでいる家の建て替えなら、日の当たり具合や風の通りや近隣の騒音など家の周りの状況もよく分かります。しかし、更地に家を建てるとなると、どうしてもプランニングの中に住んでしまいます。つまり間取りづくりに没頭するばかりで、家の周りの状況が見えてきません。これではいざ住んでみると、隣からの視線やトイレや風呂の音などがまる聞こえになるなど、落ち着かないことにもなりかねません。
そこでできるだけ多く現場に通って状況を知ることが大切です。私たち建築家も何度か行って、晴れの日の日当たりや雨の日の水のたまり方や流れ方などを実際にチェックします。できれば春夏秋冬の状況も知りたいところですが、なかなかそこまではできません。そこで夏ならその角度から冬を想像します。図面上で夏至や冬至の日差しの角度は推定できますが、実際は近隣の家の建ち方や大きな木などがあれば大きく変わってきます。
さらに大雨の状況や河川の氾濫(はんらん)などの情報も大事です。土地を買おうとされた建主に頼まれ、私どもが現地を調べたところ、道路が四方から下がっているようなところで水はけも悪く、古いブロック塀をよく見ると浸水の跡らしき筋がありました。さっそく役所で調べてみると、すでに街のハザードマップに示されている浸水警戒地域であることが判明、契約直前でストップしたことがありました。
こうした敷地のチェックもさることながら、工事の進め方も調査します。作業車の進入の仕方や車や人の通りの多さ、さらには近隣の雰囲気も重要です。日曜は避けても平日は一日中工事をしますから騒音も注意が必要です。さらにプランニングのさなかにも近隣の家々からの目線や風の通りなどをチェックします。いざとなると「ロの字形の中庭式プラン」に切り替えることもあります。
実際の現場を知らないと、先に述べたような「間取りのためだけのプランニング」になってしまいます。住んでから近隣とのコミュニケーションが悪くなってしまう場合もあります。これではせっかく家を建てた意味がありません。
私はこうした敷地の状況をよく知ってもらうために、
「敷地の真ん中にテントを張って家族と住んでみたらどうですか?」
などと勧めます。実際にはそんなことをする建主はいませんが、敷地を購入する前に敷地周りの状況を知るため真剣に家族で行って車の中で朝ごはんやランチを食べて決めた人もいて、日当たりや風の通りどころか、車や人通りなども詳しく知ることができました。「朝はこちらの通りがうるさい」「高速道路の音があちらからする」など実際のプランニングにとても役に立つ情報が多く得られることになるのです。
そんな家族ぐるみの真剣な意識と努力によって、家のプランは住んでみてもとても居心地が良いものになります。敷地の状況を知るばかりか、家を建てる前から家族との一体感が生まれ、とても良かったそうです。
さて、急なご案内ですが、10月6日(土)に東京・銀座の資生堂ホールにて、「最期まで暮らせる家」と題して講演をします。参加費は3千円とお高めですが、季節のケーキとコーヒーあるいは紅茶付きです。くわしくは一般社団法人シニア社会学会のホームページ(http://www.jaas.jp/katudou/menu_juku.html)をご覧下さい。
岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。
「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。
著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。
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