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2012年11月22日
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天野彰のいい家いい家族

終の棲家とは「最期の家」づくりです!

文と写真:天野彰

イラスト:半分に減築して二つのアパートを(M邸:筆者設計)拡大半分に減築して二つのアパートを(M邸:筆者設計)

写真:同上(M邸:筆者設計)拡大同上(M邸:筆者設計)

写真:下の階を駐車場とアパートで貸して建て替え(都内:筆者設計拡大下の階を駐車場とアパートで貸して建て替え(都内:筆者設計

「いい家いい家族」というタイトルのコラムとして、450回目の更新を迎えています。その間に時代も変わり、住まいの形も大きく変わって来ています。しかし、私の住まいへの思いは変わらず、ますます「安全安心の家」づくりとなり、その実現が変わらぬ課題です。

 「終の棲家」とよく言われるようになりましたが、私はそんな悠長なことを言っている場合ではないと思います。本当に安全で安心な家とは、自身が「最期の最期まで『自力で暮らせる家』とはなにか?」を考えることです。

 アンケートで「これから一戸建てを建てるとしたら…」と、家の形や構造の好みを聞いてみたことがあります。すると若い人が多かったにもかかわらず、木造が72%と圧倒的に多いことに驚かされました。次にS造(スチール・フレーム、すなわち鉄骨造)が14%、さらにRC造(Reinforced Concrete=レインフォースド・コンクリート)と呼ばれる鉄筋コンクリート造が9%でした。

 やはり木の住まいへの願望が圧倒的に根強いことが分かりました。木造すなわち「和」の住まいとは言えないまでも、木の住まいのなじみの良さ、和の風情、床柱や違い棚の床の間や座敷にあこがれ、仕上げ材も板目がそろわなくて節だらけでも、本物の板張りの床や土の壁を求めるのはそんな「和」の一体感からなのでしょう。

 鉄筋のマンションに住んでいても、木のフローリングや障子の志向となっているのかも知れません。このほのかな木造願望は本質的なもので、家を建てるときの上棟(じょうとう=棟上げ)で、いよいよ柱梁の骨組みが上がった時に、その感動は頂点に達するようです。

 いわゆるヒノキや杉の木の香りに包まれた、まだ骨だけの軸組みの家を見て、多くの建主は感動します。自然の木の香りばかりか、自分が家を建てているという実感とだいご味からでしょう。わが家を支えてくれる太い柱や梁を目の当たりにすることで、家自体にのめり込んでしまいます。

 戦後の焼け跡に生まれ育った私たちが、世界と時代を駆け抜けて働き続け、老いて晩年を迎えた今、「いい家」はこうだ、ああだと押し付けられるものではなく、人それぞれ好みや生き方に合った家を求める時代になりました。

 すでに子どもたちは成長して夫婦ふたりだけの家です。そして夫婦でいたわり合う老いの生活です。どちらかが病に伏せ、足腰を痛めでもしたら大変です。そのときはじめて今の住まいの不備が見えてきます。

 デザインはモダンで、設備も良くなっていても、その感性や持ちはどうか? なによりも老いていく夫婦の生活を支えてくれるのだろうか?

 終の棲家の「終」とは、人生の最期のことでしょうが、私の解釈はちょっと違います。確かにいずれは「終の棲家」になるのかも知れませんが、そこに至るまでの長い老いの生活をいかにキープできる家かということが大事です。入院や介護施設に入ってしまっては、お金を掛けたはずの「終の家」はもぬけの殻となって意味がありません。

 老後は一つではないのです。元気でおおらかな「老前」があって、ちょっと不自由になってはじめて「老中」、そしていよいよ足腰が立たなくなって「老後」です。ならばいかに「老前」を長くするかです。

 そう考えた時点ですでに「老前」は始まっているのですが、そこで一念発起、今の住まいを建て替えてみるのはどうでしょう。あえてこれからの人生のための瀟洒な家をつくりましょう。そう思うだけで10歳は若返る感じがするはずです。

 今の家を生半可にリフォームするよりも、子どもたちのことを忘れ、現実的なわが暮らしだけを考えます。費用負担をしたくなければ、土地の半分を処分して予算をゼロにしたり、一部を人に貸すことなども考えられるでしょう。財産のすべてを託すリバースモゲージを視野に入れてもいいでしょう。マンション住まいだった人は、若い人に貸して下町に小さな土地か家を探し、地に生えた家にするのも一考です。

 いまさらこの年で、などとお思いでしょうが、どっこいこれが楽しく、活力も出てきます。「このトシになって」はじめて「建築」のだいご味を味わえます。若い頃、頭の中で描いた「終の棲家」は海が見える所で、別荘地だったでしょうが、本当の老いの生活に必要なのはそんな幻想の自然よりも、人がいる街です。人との交流や人が来やすいところが安心で楽しく、病院、スーパーや駅が近いところが安全で安心なのです。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

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