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2012年12月10日
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天野彰のいい家いい家族

都市の家の文化と思想は「狭楽しく住む」

文と写真:天野彰

写真:塀が次第に低くなってさらに遠近感が増す(京都竜安寺石庭の塀)拡大塀が次第に低くなってさらに遠近感が増す(京都竜安寺石庭の塀)

イラスト:ダイアゴナル・プランニング(すべての部屋が対角でつながる)拡大ダイアゴナル・プランニング(すべての部屋が対角でつながる)

写真:吹き抜けを鏡で無限に広げ二階を透明にする(柳邸)拡大吹き抜けを鏡で無限に広げ二階を透明にする(柳邸)

 私はどうも小さい家の設計が好きなようです。比較的広い敷地の家や大きな家の設計は自由にでき過ぎて、見かけも良くなるものの、ややもするとただ広いだけの面白みに欠ける家となりがちだからです。

 人は便利で仕事の多い都市に集まります。当然のごとく家は割高となり、小さく狭くなります。狭い家づくりは真剣そのものです。狭い中でいかに効率良くしかも「楽しく」住むかが大切なのです。狭さをいかに広く使い、広く感じさせ、さらには「楽しく」できるかを常に思いながら、工夫・提案してきました。家の持つ本来の価値を見つめ、狭い中でこそ家族の本質を見させていただき、夫婦や家族のあり方を真剣に考えることができたのです。

 私が考えてきた「狭楽しさ」は、なにも現代の都市に限りません。先人たちも狭さに関しいろいろな思想や文化を持っていたことが分かります。京都・竜安寺の石庭が代表的で、遠近法により空間を拡大する錯視(さくし)は見事なものです。拝観順路に従って初めて庭が見えると、その位置から見た長辺の側面の塀と、突き当たりの短辺の塀の高さは、遠ざかるほどに低くなっています。互いの塀の距離は、実際よりもはるかに遠くに見え、石庭は実際よりも奥行きを広く感じられるのです。

 巧妙なのは、庭に向かう門からは壁で目隠しされ、初めて左側に見えてくる庭への視点が対角線の位置にあることです。立体的な遠近手法と幾何学的ダイアゴナル視点の手法を重ね合わして用いています。

 狭い住まいを設計する際に、私もこのダイアゴナル配置プランの錯視をよく採用します。さらに立体利用や、同じ空間を多目的かつ多重に使うユニバーサルスペースや、鏡を用いて虚像を使うと、空間は数倍広くもなります。

 茶室の妙は、狭いのに関わらず永遠の広さを思わせるところです。狭さこそがわが国の空間の思考であり文化なのです。

 今でこそ茶の精神性を理解する外国人は増えたのですが、それでも茶室に招き入れると狭さに驚き、閉所恐怖的な観念に襲われる人もいます。自由に動けない狭い空間に入れられても息苦しさではなく、自己の精神の拡大をそこに感じることは、わが国の現代人でもなかなか理解されにくいものになりました。

 ところが、実際にこうした空間にじっくり身を置くと、障子や床(とこ)の掛け軸、そして天井の網代(あじろ)を見ているうちに、わが身の実態がそこから消えて、障子窓がうんと遠くにある天窓のような錯覚をいだき、わずか2畳にも満たない空間がはるか永遠の宇宙の広がりになります。そこに人を迎え、ひざを突き合わすほどの距離に座し、静かに茶を立てていると互いの息遣いも、鼓動も聞こえて来るほどです。こうしたスケール感の錯覚によって、にじり口から招かれた客人は、主(あるじ)が巨人のように大きく感じるはずです。

 小柄だったと言われる太閤秀吉は、家臣や諸侯を茶室に招き、茶を立て談合を計りました。あれほどの豪勢な屋敷に住み、権力を誇っていた秀吉に茶室に招かれた天下の諸侯たちには、さぞかし秀吉が大きく見えたに違いないのです。

 こうした卓越した「狭さのプロデューサー」こそが、千利休ではなかったかと信じてやみません。なるほど「狭さ」とは知的で、謙虚なものなのです。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

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