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2012年12月20日
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天野彰のいい家いい家族

冬でも通気を!「日本の住文化」に学ぶ

文と写真:天野彰

イラスト:蒸れる現代の箱の家と、保温と通気の良い蓑笠のような家拡大蒸れる現代の箱の家と、保温と通気の良い蓑笠のような家

写真:秋田角館の武家屋敷の外雨戸(筆者撮影)拡大秋田角館の武家屋敷の外雨戸(筆者撮影)

写真:角館の空気層のある二重屋根の蔵(同上)拡大角館の空気層のある二重屋根の蔵(同上)

写真:白川郷の合掌造りの内部、構造が見え縄で縛られている(同上)拡大白川郷の合掌造りの内部、構造が見え縄で縛られている(同上)

 このコラムで少し前に、逃れようのない夏の暑さと湿気と住まいの関係を解き明かした兼好法師の「住まいは夏を旨とすべし……」という言葉を紹介しつつ、「風通しのよい家がいい」と書きました。すると北陸や北海道などの寒冷地に住む読者からご意見が寄せられました。

 白川郷のような多雪地帯に住む人たちは「寒冷地でも夏は暑くて湿気も高い。さらに冬も家の中では湿気対策に悩んでいる」と言います。冬は周りを締め切っているだけに、湿気は構造にまで影響を及ぼしかねない危険なものです。そこで、庇(ひさし)から幅広の板や藁(わら)で雪止めをし、雨戸を縁側と土間の外に引くなどの冬支度をし、天気のよい日は極力風を誘い込む工夫をしています。

 ガラス窓も灯油もない時代、雨戸と障子を閉め、炉や火鉢の炭で暖を取り、褞袍(どてら=綿入れ袖広の着物=丹前とも言う)などを羽織って人々は冬をやり過ごしていました。真冬でもTシャツ一枚で過ごせる現代とは想像もつかない冬の過ごし方です。

 クーラーやストーブに頼らない「快適」を探して、真冬の北海道から真夏の沖縄など、各地の古い家を訪ねたことがあります。私は寒がりで暑がりなので、昔ながらの家に戻ろうなどとは毛頭思いませんが、昔の暮らしの良さをもう一度見直し、極力自然に回帰しようと試みたのです。

 すると、ほぼ各地の古い家は、日照どころかむしろ日差しを避けるように庇を深く、床を高くして雨や湿気を避ける「傘の家」であることが分かりました。土の壁、萱ぶきや二重層の屋根など、日本の家はその地の自然との調和という機能を持っていて、それがそのまま素直に風格のある日本の家の形になったのです。寒冷地でも「傘の家」であることは変わりません。

 確かに湿気は人にとっても建物にとってもよくありません。私は白川郷の合掌造りの民宿に真夏と真冬に泊まり、萱ぶき屋根の断熱効果を体感しました。築300年を誇る「和田家」では、居間の炉の炭火一つで4階建ての合掌の家全体を暖めています。Tシャツ一枚とは言わないまでも、厳寒の寒さは炭火一つでしのげます。しかも、妻側の窓は各階障子と板の雨戸だけで、真冬でもそれらを開けて換気と通気をしていました。

 この合掌造りの家は1階から3、4階まで吹き抜けの「体育館住宅」。1、2階は家族の住居、その上は養蚕の棚になっていました。合掌の三角の断面は、保温性能と風通しの良さの両面を持つ合理的な形状と言えます。萱葺き屋根は保温断熱性にも優れ、雨露を防ぐと同時に通気性も持たせています。

 しかも軸組みの構造はすべて露出し、縄で何重にも縛って結合してあります。家のすべての部分に風を通すことができ、損傷箇所もすぐに確認できるので、いわばメンテナンス・フリーの家です。炉で焚かれる煙で構造材や萱の中にひそむ害虫も燻(いぶし)出しています。日常生活を通してメンテナンスができ、長寿命住宅になります。

 縄で結ぶ柔軟な柱梁の構造は、地震や暴風雨、さらに豪雪の重量にもしなやかに強く対応できます。わが国の伝統木造建築を見るにつけ、素晴らしい「地震文化」の妙があちこちにちりばめられていることが分かります。超高層ビルの柔構造の発想の元ともなった五重塔など、張り出した瓦の屋根のバランスで各層をばらばらに積み重ねると、その柔軟性で地震のエネルギーをかわします。まさしく柔(やわら)の文化です。

 東大寺などに見る5メートルにも及ぶ巨大な庇(片持ち屋根)を支える肘(ひじ)を幾重にも組んでいくような「斗きょう」の知恵で、荷重と揺れをバランスを取って吸収します。固めない仕口(しぐち)によるアローワンスのある木組み(きぐみ)の技術は柔軟で、貫(ぬき)によりエネルギーの分散を図ります。あちこちにある楔(くさび)による衝撃の吸収と材料破壊を防ぐ「すべり」の技術など数え上げたらきりがないほどです。

 合掌造りでほぼ30年おきに行われる屋根の藁(わら)の葺き替えは、近所の村人全員で行います。これは「結い」と言われるもので、このリフォームが村のコミュニケーションにもなっています。農村地域の封建的な家族制度の時代に作られたものですが、わが国の気候風土は今も変わらず、そこで育まれた匠(たくみ)の技と生活の知恵は継承されるべきではなかったかと改めて思います。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

天野さんへのご質問、ご意見は天野さんのホームページから

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