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2012年12月27日
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天野彰のいい家いい家族

妻を亡くして住まいの本質を悟る!

文と写真:天野彰

写真:思い切って建て替えた建築家のSさん(横浜)拡大思い切って建て替えた建築家のSさん(横浜)

写真:むくり屋根で大空間(同上)拡大むくり屋根で大空間(同上)

写真:完成の日を迎えたSさんご夫妻(同上)拡大完成の日を迎えたSさんご夫妻(同上)

 住まいの設計は他の建築設計に比べてたいそう難しいものです。ビル建築や公共建築が得意な建築家も、住宅の設計となるとなかなか良い案が浮かばず、プロだけに邪念も多く、融通も利かず、結局使いにくくメンテナンスのしにくい家となってしまうそうです。そんなわけからか、私は多くの建築家の家づくりのお手伝いをしています。

 確かに住まいに対する人の思い入れや好みは様々で、その建て方や構造も多種多様で、予算も大きく違ってきます。しかも大工や工務店は同じ設計仕様でも1千万円もの価額差が出ることもあります。答えは簡単で、住まいは「建築」ではなく、家族のための「衣服」のようなものだからです。

 その家族が一緒に着るためには、全員の意見調整も大変です。しかも家族はそれぞれ育って時間とともに変化していきます。特にリフォームの場合、建物の状態と家族の生活状況を見ながら「臨床的に診る」ことになります。その意味で医療行為のオペレーションのようにも思えます。まさに住まいは「生き物」です。

 大げさですが、住まいの設計はそれ自体の経年変化に加え、そこに住む家族の行く末までを見通すことが大切です。「今」だけではなく「将来」を予測し、その人に合った工事の仕方や予算を選び、施工の手順を探り出します。さらに工事の途中であっても住まい手の感想や反応を「診て」修正し、新たなアイデアを加味していきます。

「分かりました。この出入り口はこちら側に変えましょう」

「タイルではお好みに合わないと思います。御影石張りにしませんか?」

 今まで詰めてきた設計や仕様に加え、工事の後半になって建主の意見や様子に、こうした変更提案をすることもあります。建主には「場当たり的な提案ではないか」と思われる場合もあります。まさしくその通りです。その「場」や途中の変化によって臨機応変に修正できることこそで、家族に合った住まいに近づいていきます。

 建主と出会って提案して、さらに打ち合わせを重ねて実施の設計図が出来上がります。しかしその間に建主もいろいろと見聞し、家族との本音の話もでき、変化が起こります。いよいよ見積もりに出して施工者の価額が出てくる段階になると、家族も「わが家の本当の形とは何か。価値とは何か」を真剣に考えるようになります。厄介なことに、いざ家が建ち上がると、実際の空間や仕上げが見えてきて、現実的な要望が出てきます。リフォームの場合は、床を壊して初めて、構造の損傷程度もはっきりしてきます。それぞれの時点での家族の変化やその後の生活を考えて総予算との加減(バランス)を判断し、ぎりぎりのところで変更修正を加えていきます。

 これが家づくりにおける建築家の度量だと思います。変更価額をその都度、施工者と協議して再度見積書と変更箇所を細かくチェックします。何カ月も掛けて作成した何十ページにおよぶ設計図と分厚い見積書を見ながら、さらに何十人もの現場の職人さんたちに頼んで変更を勇断します。これが建築家の本質的な仕事ではないかと思います。

 こうした臨機応変のやりくりと柔軟に対処できる設計監理者に頼むことが理想です。かく言う私も、ただひたすら失敗を重ねてきました。多くの建主から多くのことを教えていただき改めて感謝しています。最初は「家族とは何か」あるいは「夫婦の本音」を想像と感覚だけで考え、家の機能や間取りやデザイン優先の建築的発想で考えていました。

 しかし、初めてわが家を設計した時、これらの感覚のすべてが否定され、「住まい」の本質が何か分かりました。私の唯一の理解者であるはずの妻と、意外な場面で衝突したのです。揚げ句の果てに、「あなた! それでも建築家なの?」という妻の一言で、それまでの私の建築家としての誇りと考えが衝撃的にくつがえされました。その後の資金集めからローンの返済の苦汁はもとより、子育てやすべての生活の本音を理解し、夫婦、さらには両親の問題を通して住まいづくりの現実を知ることができました。

 家が出来て喜びの冷めやらぬ数年後に、不幸にして妻を大病で亡くしました。すると、それまであまり気にしていなかった建築「材料」や、「家相」さえも気になりだしました。私はその時初めて、住まいは単なる「住宅」の設計ではなく、家族の「生活の場」づくりであり、「家族の衣」として「生き物」扱いすべきだと思った次第です。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

天野さんへのご質問、ご意見は天野さんのホームページから

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