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2012年12月30日
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天野彰のいい家いい家族

住まいは「家族が帰るところ」です【最終回】

文と写真:天野彰

写真:重量鉄骨を使って思い切って建て替えを決意。娘さん夫婦と同居のOo邸(東京・世田谷)拡大重量鉄骨を使って思い切って建て替えを決意。娘さん夫婦と同居のOo邸(東京・世田谷)

写真:棟上げで大工さんたちと「ほっ」とするひとときを楽しむOoさん(同上)拡大棟上げで大工さんたちと「ほっ」とするひとときを楽しむOoさん(同上)

写真:むくり屋根の伝統木造で、息子さん夫婦と同居するOg邸の全容(佐賀市)拡大むくり屋根の伝統木造で、息子さん夫婦と同居するOg邸の全容(佐賀市)

写真:棟上げで近所の人にご縁結びのもち投げをする(同上)拡大棟上げで近所の人にご縁結びのもち投げをする(同上)

写真:拙著『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)拡大拙著『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)

 不運にも脳梗塞(こうそく)で寝たきりとなったご主人のために、娘さん夫妻と同居する家を建てておられる奥さんがいらっしゃいます。安全かつ快適な住まいで新しい年を一緒に過ごしたいと願う奥さんの強い思いからです。

 ご主人がこん睡状態になられてすでに一年以上が過ぎ、今も回復を願って献身的に自宅看護をされておられます。娘さんとの同居の家を建てたいという思いは、発症前のご主人の希望でもあり、営々と続く過酷な看護生活を続け、ご主人の回復を期待する奥さんの決意です。

 ご主人が時々見せるわずかな表情の変化や瞳の反応に、共に生きている幸せを感じながら、慎重に慎重を重ねてご主人と仮住まいに越しました。春には戻るべく、新居を目下建築中です。

 家は人が生きるところであり、そして帰るところなのです。家族はもとより、たとえ独り身であっても、必ず帰るところが家です。そこでほっとして身体を休め、明日を迎えるところです。

 住まいは家族が楽しく暮らすところであると同時に、育ち、学び、そして鍛えるところです。時には病室として癒やす場所であり、老後の療養室としても役割もあります。そのため寝室やリビングの近くにトイレや浴室などの水回りを配置し、廊下やトイレなどの温度差にも注意を払います。

 多くの医療や福祉施設づくりのお手伝いをさせていただいた経験から、談話室や食堂よりも、療養室の居室環境がなによりも大切であることが分かります。寒すぎたり暑すぎる空調は体力を消耗します。やはり窓を極力大きく開け、自然の風通しができることがなによりも重要です。

 不幸にして身体が不自由になると、身の回りの物や大切な物の置き場への配慮も重要です。わが家がいずれ療養室になることを想定する「見えない設計」も必要になります。家は自分がいくつになっても、どんな状況でも、優しく迎え入れてくれ、元気づけてくれるものでなくてはいけないのです。

 このコラムは当初、関連サイトの「いい家朝日」で「天野彰の元気が出るいい家日記」として始まって以来、10年余に渡って続けさせていただきました。お陰さまで「“元気が出る”リフォーム」とか「“元気が出る”建て替え」セミナーなど、各地でお話もさせていただきました。まさに超長寿命時代のニーズからでしょう。

 しかし、実際のリフォームや建て替えとなると、分かっていそうでなかなか決断ができないものです。これはどなたも同じです。みなさん、雑誌のグラビアやリフォーム番組などの感覚で期待されるのですが、私は「これから先のご自身の思いをお話ししていただけないか」とお願いします。すると「どんな家が私どもに合っているのか」などと、水掛け論のような問答になってしまいます。

 設計の提案に慣れた建築家でも、人さまが生きるための家のイメージやリフォーム提案は、そうそう簡単にできません。もちろん自分なりに土地や建物の形や家族の雰囲気から、どんなイメージの建物やプランかはおおよそ分かるのですが、やはり建主の思いをさらに深く知ることに努めます。

 企画プランや提案マニュアルに従って、希望をおおむね聞き出して早々に提案すると、それがそのまま最終プランになる例も多いようです。長期にわたって住む家のプランがさしたる議論もなく、簡単に決まってしまいます。建主もいくつかのメーカーに案を出させ、最終的にその価額で決めてしまうことが多いそうです。案の良しあしは自身では判断しにくいためです。

 家づくりはもっと現実的な暮らし方や生き方です。せっかく出会った設計者と口論をしてでも、互いの意見を言い合って決めるものだと思います。住まいはその形やデザインだけではなく、生活のこと、将来のことなど少しでも多くの可能性を考えます。そういう意味でも「見えない設計」を盛り込むことが大切です。

 もっとも懸念されることは、東海地震や南海地震などマグニチュード7を超えるプレート型大地震が同時にあるいは連鎖して起こる、いわゆる巨大地震の可能性です。その確率が次第に大きくなっています。地震に打ち勝つまではいかずとも、せめて自身や家族が押し潰されずに助かるように工夫することが大切です。

 さらに気になるのは消費税増税や今後の電力事情です。老いると冷房はさほど気になりませんが、寒さは問題です。灯油や炭火も非常用として必要ですが、やはり断熱と風通しが一番です。前々回のコラムでも触れましたが、リフォームで内壁をはがす際に断熱材をさらに加え、サッシやガラスも二重にします。雨戸やシャッターを設置して断熱はもとより、火災の類焼を止めることも重要です。

 「家は家族が帰るところ」です。その帰る家が無くなってしまうことほど辛く悲しいことはありません。今も東日本では、多くの人がその苦難の中におられます。今の自分の帰るべき家がなくなってしまったと一瞬考えてみましょう。すると行政がどう動くべきか、何をサポートすべきか、はたまた安心の家づくりに消費税を掛けてよいのか、といった疑問がよく分かるようになります。

 改めて家づくりの意味、耐震耐久の「長寿命化」に向けたリフォームの重要性を分かっていただけるはずです。

 新しい年を迎えるあたり、東京・世田谷の密集地で重量鉄骨を使って建設中のOo邸と、佐賀市で地場産の無垢の柱梁を使って、名棟梁による伝統木造を建てているOg邸の写真をご紹介しました。二つとも親子同居住宅です。それぞれのお母さん方に無事完成を祈念し、エールをお贈りして私のつたないロングランコラム「いい家いい家族」をひとまず締めさせていただこうと思います。

 長くお付き合いいただいた読者の皆様方に感謝を込めて、拙著『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)を10名様にお贈りしたいと思います。下記、私のプロフィル欄にあるホームページよりご応募ください。ありがとうございました。

プロフィール

天野彰(あまの・あきら)

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。

「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。

著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。

天野さんへのご質問、ご意見は天野さんのホームページから

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