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親には個室がない、なんでだろう・・・nLDKの意味
染谷正弘

居間・食堂(LDK)

 子供には個室があるのに、なぜ親には個室がないのだろう。それを不思議に思わないのが不思議だ。だれだってひきこもって一人になりたい時がある。でも、親であり夫婦でもある大人には、家の中で一人きりになれる自分の居場所がない。夫妻はあくまでも二人で一体という暗黙の了解のもと、それが当然のように、普通の家はつくられている。二人に用意された部屋はあくまでも主寝室、二人に個室はない。

 いま私たちがあたりまえのように暮らしている、その普通の家が、近代住宅(モダン・リビング)だ。住まい手は、サラリーマン核家族。その間取りは、nLDKと表記される。nは寝室(B)の数、LDKは居間(L)と食堂(D)と台所(K)とでワンセットになった家族の団欒(だんらん)スペースを表す。今の私たち家族のありようや暮らし方を考えるとき、この表記はとても示唆に富んでいる。住宅の間取りは、そこに住まう人たちの人間関係やライフスタイルを端的にあらわすからである。

 nLDKの由来は、第二次世界大戦後の住宅難解消をめざして開発された住宅公団アパートの「2DK」にあるといわれている。1950年代後半から、都市部郊外に、住宅公団によるたくさんのニュータウンがつくられていく。いわゆる公団の「団地」建設だ。それと一緒に大量供給されたのが「2DK」住戸で、日本の住まいの近代化に多大な影響を与えていく。DKはダイニング・キッチンを、数字は部屋の数を表している。

 「2DK」は、日本の住まいの風景を一変させた。食堂と台所が一体となったDK登場の意義は大きい。なによりも、そこにはステンレスの流し台があった。そして、食卓は椅子式になり、そこではスリッパが履かれるようになる。硬くて濡れてもいい素材で床が仕上げられたDKは、ちょうど土間と畳部屋のそれぞれの良さを兼ね備えた、明るく清潔な食事専用室としてデビューしたといえよう。DKは、かくして新しい時代の新しい生活空間の象徴となった。

主寝室(MB)
 DK登場の意義は、実は「食寝分離」を可能にしたことにある。戦前、戦後の普通の家では、茶の間で寝食をすませるのが一般的だった。畳敷きの狭い茶の間に、朝晩はちゃぶ台をひろげて食事し、夜は布団を敷いて寝ていたのである。団塊の世代くらいまでは、そんな生活シーンを記憶している人も多いように思う。食事する部屋と寝る部屋を分離して、それぞれを独立させることが、住宅改善つまり住まいの近代化の第一歩だった。

 だから、DKが確立されて、ようやく就寝専用の部屋である寝室も確立されたといってよい。この時、プライバシーあるいは私生活という概念が、初めて住空間に登場する。その私生活の拠点が、まさに近代住宅だ。その中で最も私生活濃度の高い部屋が、夫婦主寝室ということになる。そこは、夫婦の性の営みの場でもあるからである。最終的に、親と子供の寝室がそれぞれ明解に分離独立して初めて近代住宅は、その理想の姿を現す。

 私生活という概念が、近代的自我を担う個人という概念と共にあることはいうまでもない。しかし、近代住宅の成り立ちにおいて、住まい手はあくまでもサラリーマン核家族であって個人ではない。一組の夫婦とその未婚の子供たちから成るのが、核家族だ。そして夫婦は、私生活において、どんな時も二人で一体であることが義務づけられている。その象徴が、主寝室(MB=master bedroom)だ。夫婦が夜を共にしないことはスキャンダラスなことなのだ。だから、二人に個室はあってはならない。

 親子はいつも仲良く「LDK」で団欒を囲み、夫婦はいつも一緒で「MB」で愛し合う、それが近代住宅の成り立ちの基本だ。しかし、いまnLDKという表記では表現しきれない間取りを持つ住宅が、戸建て住宅やマンションを問わず、数多く現れつつある。夫と妻、親と子といった人と人との社会的関係が、いま大きく変わりつつあるということであろう。

(03/07/27)




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