現在位置:asahi.com>住まい>住まいのお役立ちコラム> 記事 PR 注目マンション情報建てること、住まうことについて考えてみよう2007年05月11日 染谷正弘 雨露をしのぐだけなら橋の下でもいい、家なんかいらない。家には、シェルター機能を越えた何かがある。
住まう(live)ことは生きる(live)こと。だから、家には住まい手の生き様(life style)が的確に反映される。私たちは、普段、そのことを特に気にかけることもなくあたりまえのように暮らしている。だからこそ、ときには自分の家について、住まいについてじっくり考えてみてもいいように思う。自分の生き様が見えてくるかもしれない。 住まうこと、生きることについて、これまで多くの先人たちは自らの思いを熱く語ってきた。 たとえば、ハイデッカー。彼は、人間が生きて存在することの意義を解き明かそうとした20世紀を代表する哲学者だ。まさに「建てること、住まうこと、考えること」(1951年)というテーマで、彼は自らの哲学を語っている。 建てること、住まうこと、考えることつまり人間として生きることは、同一の営為だと唱えたのがハイデッカーだった。彼は、膨大な時間に培われた伝統・文化に支えられて家を建て、住まうことに、人間で在ることの根拠を垣間見ようとしたのだろう。ドイツ語では、「建てる」と「在る」とは同じ語源なのだそうだ。 「もしも家がなかったらば、人間は散乱した存在となるだろう。……家は肉体と魂なのである。……われわれの最初の宇宙、まぎれもなくコスモス」(1969年)と唱えたのは、やはり哲学者のガストン・バシュラール。彼は、人間の宇宙観を解き明かそうとした哲学者としてよく知られている。 バシュラールは、机の引き出しの中にも小宇宙を発見しようとする。人がオギャァと生まれて最初に体験する小宇宙は、母親の胸や腕の中ではないだろうか。その延長に家がある。実際の空間と人間が思い描く宇宙観との関係を解き明かそうとする彼は、家という小宇宙に人間の豊かな精神世界を見いだしていく。彼は、人間の精神が空間化されたものが家であり、秩序ある精神世界こそが宇宙(コスモス)と考えたのだと思う。 家は社会の縮図、まさに社会の小宇宙(ミクロコスモス)といっていい。だからだろう、家をテーマにした小説はけっこう多い。21世紀初頭の日本現代社会を背景に、家族や仕事場の人間模様を描いた興味深い小説を2冊ご紹介しよう。 『最後の家族』(村上龍・幻冬舎・2001年)と『くうところねるところすむところ』(平安寿子・文芸春秋・2005年)だ。 『最後の家族』は、数年前にTVドラマ化されて話題にもなったから、ご存じの方も多いだろう。埼玉県の郊外建売住宅街を舞台に、住宅ローンをかかえてリストラされたお父さん、不倫をするお母さん、引きこもりの息子、夢多き娘、ドメスティック・バイオレンスのお隣さん夫婦らが登場し、まさに現代社会の縮図のなかで物語は展開していく。 サラリーマンのお父さんは会社に依存し、専業主婦のお母さんは夫に依存し、息子は親に依存し……登場人物の誰もが誰かに依存して、責任転嫁ばかりをして生きている。これも現代日本の典型的な人間像だろう。その象徴が、銀行に依存して買った「夢のマイホーム」だ。でも、夢に見た家族のだんらんなど全くなく、家族は崩壊に向かってつき進んでいく。 物語の最後に「夢のマイホーム」を手放すという象徴的な出来事が起こる。でも、これによって家族全員が、精神的に解放され、家族に優しくもなれて、誰にも頼らず自立して生きていくことになる。『最後の家族』は、「夢のマイホーム」つまり近代住宅(モダン・リビング)の呪縛から解き放たれたことによって幸せをつかんだ家族の物語といえよう。確かに、近代家族像も近代住宅も、そのほころびは見えてきている。 『くうところねるところすむところ』では、家を建てること、住まうこと、生きていくことが、もっとポジティブで明るく楽しく描かれて、物語は展開していく。主人公は、小さな建設会社で働くタフで可愛い現代女性たち。そして、少子高齢化社会で女性の社会進出も離婚や不倫もいまやあたりまえといった感じで、現代日本の現実を明るく元気に肯定することから物語はスタートする。この小説は、まさにハイデッカー哲学の実践物語、あるいはバシュラールのいう小宇宙の創造に喜びを見いだす物語といってもいいだろう。 物語のなかで、女主人公たちが建主と一緒になって思い描き、建てようとする家々は、多世代同居、縁側があって塀が無い、居間は小さなコンサート会場にもなるような住まいで、それらはもはや近代住宅(モダン・リビング)ではない。それらは、「街に開放された循環(サスティナブル)型住宅」とでも名付けたくなるような新しいタイプの家々だ。新しい小宇宙の出現を予感させる。 上の2冊の小説を是非一読してみてほしい。そして、建てること、住まうことについてあらためて考えてみてはいかがだろうか、けっこう楽しいと思う。 |