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スケルトン・インフィルの原風景……SI住宅の可能性(4)

2008年2月29日

  • 筆者 染谷正弘

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シェーンブルグ宮殿

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リヨン旧市街

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レイクショアドライブアパートメント・シカゴ

 建築をスケルトン(躯体)とインフィル(内装・設備)に分けて考えようというSI住宅は、これからの日本の住まいのあり方を考える上でいろいろな示唆を与えてくれる。スケルトン・インフィルという概念が登場した文化的背景を探り、私たちにとってのSI住宅の意義を考えてみたい。

 ベルサイユ宮殿(1767年起工)に、来客用のトイレが無かったことをご存知だろうか。たくさんの貴族が集まる舞踏会のときなど、エレガントな紳士淑女たちは、薄暗い地下室の廊下に行って垂れ流しをしていたらしい。西欧に香水文化が発達した事情もわかるような気がする。その廊下、いつも香水がまかれていて『花園の廊下』と呼ばれていたという。

 いま、私たちの身の回りを見渡せば、いつの間にか和式トイレは消え、洋式トイレばかりになった。その洋式トイレも、最近は、暖かい便座にウォシュレット付きがあたりまえになりつつある。それも、ここ10年くらいのことだろうか。その水洗式の洋式トイレが西欧に誕生して普及するのは、産業革命以降のことだからここ200年くらいのことでしかない。人類文明史からすれば、ついこの間のことだ。

 では、それ以前はどうしていたかといえば、西欧では「おまる」が一般的だった。部屋の片隅に排便用の壷が置いてあり、そこで用をたしていたらしい。都市部で2階や3階の部屋に暮らす人たちは、早朝に「おまる」の中身を窓からそのまま道路に捨てていたという。馬などの家畜も街なかにはたくさんいただろうし、近代以前の西欧の諸都市は、街並みは美しいが、かなり不衛生だっただろう。その美しい石畳の街路も、そうした汚物をすみやかに洗い流すために発達したという説もある。

 ちなみに、日本では、都市でも田舎でも「肥溜め」に大事に集められ、余すことなくすべてが田畑の肥料になっていた。農耕文化に生きてきた日本人にとって、人糞は貴重な「肥(こえ)」だったことを、いまの私たちは思い起こしたほうがいいかもしれない。

 床にころがっていたその「おまる」こそが、洋便器の原型であり、床に固定化され配管でつながれて、現在の水洗式洋式トイレは誕生する。その配管につながれた便器こそがまさに「インフィル」であり、それが組み込まれた建築本体が「スケルトン」ということになる。

 お風呂のバスタブも、もともとは身体がすっぽり収まる大きな「おまる」だったと思えばいいだろう。床に置かれていただけの身体を洗い流すためだけの大きな桶が、給排水管につながりバスタブとなり、バスルームも出現する。洗面器のある洗面所も、流し台のあるキッチンも同様だろう。また、電気配線でつながった照明器具も換気扇もエアコンも同様に、インフィルとしてスケルトンに組み込まれていく。

 それらすべてが産業革命以降に起こるのだが、そのときまさにインフィルは誕生したといっていい。それは、建築の成り立ちそのものを変える画期的な建築革命であり、建設技術史的な観点からは「建築」が「機械」へ一歩近づいた瞬間でもあったろう。

 木の柱と梁で構成される「フレーム(軸組み)」を基本とする日本建築に対し、石やレンガを積み上げて構成される「壁」を基本とするのが西欧建築だ。そこで、木の「フレーム」をスケルトンとするのが日本建築、石の「壁」をスケルトンとするのが西欧建築の基本的成り立ちということもできよう。

 産業革命以降、建築のスケルトン自体も大変身する。素材は、木や石からコンクリートと鉄へ、構造形式の主流は「壁」から「フレーム」へと、スケルトンの様相は一変する。建築は、形も大きさも変化自在となりガラスで覆われて行く。そして登場したのが、近代建築だ。コンクリートと鉄のスケルトンに最新設備機器がインフィルとして組み込まれたこの新しい建築様式は、近代化の名のもとに瞬く間に地球全域を覆いつくしていくことになる。その象徴がニューヨークのマンハッタンでありシカゴだろう。

 その一方、20世紀の世界中の近代国家は、未曽有の人口増加と世界大戦による住宅不足から、コンパクトで画一的な集合住宅を大量に建設し続けていく。日本の「団地」や「ニュータウン」を思い起こせばいい。そのマスハウジング(大量供給住宅)の実現を可能にしたのが近代建築であり、そして生まれたのが近代住宅(モダンリビング)だった。

 いま、私たちの多くは、分譲マンションや建売り住宅、つまりは商品化されたモダンリビングに住んでいる。それら商品化住宅のほとんどどれもが似たようなものばかりで画一的だと、誰もが心の底に感じているのではないだろうか。それは公共、民間を問わず、さらには洋の東西を問わず、供給側の論理で、つまり近代合理主義に基づいて計画、建設されたまさにマスハウジングだからであり、それは近代建築つまりはモダンリビングの宿命といってもいい。

 そこで、住まい手の意思がより反映されるように住まい手側に開かれた居住空間を実現しようと1960年代のオランダに登場したのがSI住宅構想である。でも、そのSI住宅の「S」は、そもそもは「スケルトン」ではなく「サポート」の「S」だったことは案外知られていない。実は、1990年代に国交省が、そのサポートをスケルトンに言い換えて日本に普及させた経緯がある。

 居住空間を「サポート(支える)」部分と「インフィル(組み込む)」部分に分離して組み立て直そう、そしてインフィルを住まい手に委ね、モダンリビングに内包された近代合理主義の呪縛を解き放そう、それがそもそものSI住宅構想のテーマだったのである。

 SI住宅におけるスケルトンつまりサポートは、居住空間さらには都市空間における「基幹構造(インフラストラクチャー)」と理解したほうが正しい。スケルトンをも包含するより広い概念がサポートであり、そのほうがインフィルの概念もより明確になり、SI住宅本来の思想を浮かび上がらせてくれるように思うのだがどうであろう。

 地震国日本においては、確かにサポートよりスケルトンのほうがよりインパクトはあり、わかりやすいのかもしれない。実際、いま日本でのSI住宅への関心は、自由なインフィルより頑強なスケルトンのほうに集中しているようだ。

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