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もう一度行きたい映画館

 ところ、ミニシアターがはやったが、どこか懐疑的だった。
「ちょっとふかふかのイスで、こじんまりとしていて、作品のラインナップが名画だったり、あまり配給されない国の作品だったりする。規模が小さくて音や画質が良いという以外の特徴は、これといってないのだろう」
 実際、いくつかは行ってみたいが、感想は「まあ、そこそこ楽しい」。映画館としては居心地は悪くはなかったが、もう1回行きたいという感じでもなかった。要は作品のラインナップだろう、と思っていた。

外壁も土壁。漆くいにも見える落ち着いた味わい

 ころが、その思いを心地よく裏切る映画館を発見した。東京・杉並のラピュタ阿佐ケ谷がそれである。
 ロシアのアニメ集をやっていたので子どもと見に行ったのだが、まず建物からして映画館らしくない。円筒形の赤茶色の建物が斜めに建って見えるのだ。そしてエントランスから壁、階段、2階の窓辺まで、アイビーやシダ、ハーブが茂り、緑があふれている。
 「天空の城ラピュタ」をイメージしたというその建物は、大人の遊び心にあふれていた。中に入ってみたい、という気持ちを喚起させる。実際入ってみると、土壁と無垢(むく)のフローリングや、外構部のテラコッタなど自然素材に囲まれた内装が、思いのほか心を落ち着かせてくれた。

映画館への入り口がこんなに緑にあふれているなんて、なんだかすごくシアワセな気分になる

 0しかない座席シートはもちろんふかふかだったが、この映画館の最大の魅力は「土壁と緑」だと思う。室町時代の土壁の技法を用いた茶色の壁が、「誰か個人宅の客間」に通されたような特別の「もてなし感」を演出しているように見える。
 映画という人工的な快楽を、自然建材に囲まれた空間のなかで味わうというのはなかなか趣き深いものだと思った。コンクリートのビルの一室でどんなにふかふかのイスがあろうと、ここまでの居心地の良さは得られないだろう。フローリングの傷や、生い茂るグリーンにあまり手を入れず、自然に任せているようで、歳月が味わいになっている。

こちらはレストラン山猫軒のデッキ

 ニメと名画にこだわったラインナップというのも、間違いがなくて良いなと思った。どんなに質が高くても、誰も知らないマイナーな作品だけでは商売にならない。こういう居心地のよい映画館が商業的に成功するためには、確実な作品の選択眼が必要だ。
 私が見たロシアの映像作家ユーリー・ノルシュテインのアニメはまさに芸術で、どれも一編の詩のように美しかった。こういう作品を、土壁がはき出すきれいな空気の中で見ることができるのは幸福である。
 1階には「会社帰りの人が映画を見た後、食事もできるように」と、有機野菜を使ったフレンチレストランが入っている。ディナーも手ごろな価格で、客の心をくすぐる。「山猫軒」というレストランの名は、宮沢賢治の作品からもらったらしい。

 画関係者に聞くと、「あそこはオープンして6年。手堅い商売で客が増えている。地元に根ざしたいい小屋だよ」とのこと。杉並区でたった1軒の映画館。ここなら、また来たいと思った。 (2004/07/26)








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