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マットは頭部と足と、それぞれ別のカーブで、長時間寝ても疲れない仕様。こんな上等品なのに……。 |
「あのさ、二段ベッドいらない?」
近所に住むDさんは突然、電話でこう切り出した。なんてことだ。我が家では、先週も先々週もネットのショップでベッドを探したり、家具屋を見てまわったりしたばかり。棚からぼた餅みたいな気分だ。
二つ返事で、クルマで取りに行った。
Dさんの夫は絵本作家で、近所にアトリエを借りていた。それを引き払って自宅に戻るのだという。だからベッドが邪魔になった、と。
さっそく駆け付けてみれば、医療用のかなりな高級品である。ずうずうしい私でも、思わずためらってしまった。
「もらってくれるだけで、うれしいのよ。このばかでかいベッドを運搬するには近所に住む人じゃなきゃいけないし、子どもが2人いなくちゃだめ。さらに、ベッドを入れる予定のある人となると、お宅くらいしか思い浮かばなくてさ。頼むからもらってちょうだい」
というわけで、我が家にそれはやってきた。まるで測ったかのように、子ども部屋の壁のサイズにぴったり。
私と夫は、これで一つの節目が来たと感慨深く思った。家族4人、枕を並べて寝る生活はこれで終わった、と。
かねて、「子どもがベッドで寝るようになったら、私たちは和室に移ろうね」と話していたのだ。
1日目。どちらが上に寝るかとさんざん言い争った揚げ句、兄が妹を制して兄が上、妹は下のベッドにて入眠。柵がないので落ちやしないかと心配で、私は同じ部屋の床に布団を敷いた。
2〜3日目。兄妹であいかわらずけんかしつつベッドで睡眠。
4日目。長男が小さな声で言う。
「ねえ、そっちに寝ていい?」
床に敷いた2枚の布団の片方を指さす。
「なんでよ、せっかく待望のベッドが来たのに」
「今日だけ。でも、よその人に言わないでね、このこと。恥ずかしいから」
仕方がないので、夫がベッドへ。あろうことか、その日以来、息子はベッドの上段で寝ていない。私がベッドで寝たり、息子と娘がベッドの下段と床を入れ替わったり、ときには床に敷いた布団2枚に3人が寝て、ベッドの上に誰も寝ていないなんてことも。ベッドの上を除いて、ぐるぐると不規則なローテーションを刻んでいる。
それにしても先月、年齢が二けたになったというのに何とも情けない。毎晩、「ベッドの上で寝ろ」「いやだ」「もったいないよ」「いやだったらいやだ」の押し問答。そして息子はいつも、最後につぶやく。「だって、上はみんなの顔が見えないから寂しいんだもん」
はぁー。つくづく、とほほな男である。ため息をついていると、夫が言った。
「まあ、もうちょっとたてば、ひとりで寝たい時がぜったい来るって。いややゆうてるうちはしゃあないで」
ずいぶん“とう”がたってはいるが、一応、元男の子であるからして、ここは体験に裏づけられた推測を信じるとしようか。
夜中、ふっとみると、夫が一番うれしそうな顔で子どもと一緒の部屋で寝ていた。我が家の男はどいつもこいつも……。
からっぽのベッドの上を見ながら、もう一度私は大きなため息をつくのであった。