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最近見たリノベーションで印象的だった2軒。上は、元ガレージをケーキとインテリアデザインを扱う店にリノベーションしたapartment Inc。下は元お菓子屋さんを手作りのギャラリーに。hacoギャラリー |
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リノベーションという言葉がはやり始めて、しばらくたつ。年月を経た建物を再生して価値を高めることで、新築時とはまったく違う使い方、機能を付加することを指す。
たとえば、古い社員寮をデザイナーズマンションにしたり、閉鎖した工場を住宅にするなど、発想の転換で建物の価値を向上させるのだ。
建てて壊してまた建てて、の時代を見てきた私は、そういう話を聞くと無条件にいいなあと思ってしまう。
隣の芝生が青く見える私の物欲・不動産欲は、よくよく底なしに出来ているらしい。なにもかもがピカピカの新築に入っているので(現在のコーポラティブハウスのこと)、その反動で年月を経た建物の存在感や味わいにことさらひかれるところがある。古い家や長屋に住みたくてしょうがないのだ。
だが実際は、リノベーションと騒がれている割に、中古物件は個人では入手しづらいものである。
「古くてもいい」「古家付き土地」といった、不動産の世界ですでに建物の価値がゼロとされている物件でいいからと、どんなにお願いしても、ふつうの不動産屋さんではなかなか紹介してもらえない。
先日、大手不動産メーカーの売買を扱う社員から、リノベーションについてこんな話を聞いた。そういう流行を十分承知の40代やり手営業マンといった風情の彼は、率直に語ってくれた。なるほど、それは売りたくないだろうなあと納得の理由ばかりだった。彼は言う。
「リノベーションとまではいかなくても、古い物件に手を入れて暮らしたい、安く買って好きにリフォームしたいというお客様は増えました。そうおっしゃるのは若い方が多いですね。でもですねぇ、我々からすれば、怖くてとても売れないんですよ。あとあと面倒なことが多すぎるから」
面倒なこととは次のようなことだ。
まず、素人考えで古い物に手を入れて……といっても、耐震の補強工事や正確な建物診断にはそれなりの投資がいる。そこをはしょると、中古はあとでどんなトラブルが起きるか、責任を持ちきれない。
また、中古物件は歳月による劣化が当然あるわけで、あとあとクレームが多いのも事実。「古くてもいいと言いながら、実際に水道管のトラブルなどがあると、まっさきに我々にクレームが来る。だから、そういう物件は業者内でまわすことがほとんどなのです」とのこと。すぐに更地にして、なるべく安く上物を建てて(安く、の部分はあくまで私の想像)、利益分をのせて戸建てとして売り出すほうがずっと早くて楽。
さらに、「リフォームや改装は新築を建てるよりお金がかかる。およそ新築の3割増しだということを、今のお客様がたは意外に理解されていない」と彼は嘆く。柱や梁を残すので、効率よく大型機械を入れることが出来ず、搬入も工事も手作業になる。その手間と人件費はばかにならないそうだ。
結論。古い家に住みたかったら、劣化によるその後のある程度の建物のトラブルは想定すること。安く買っても改装費は潤沢に。リフォームで自分の出来ることはやって、コストダウンを(塗装など)。物件を探すときは、「そういったことはすべて覚悟している。それを承知の上で、中古物件を紹介してもらいたい」と明確に伝えること。はやりなので私もやってみたいなぁ、というような軽いノリではないことを強力にアピールすることだ。
ところで、古家付き土地が一般人に公開して売られる割合は,全体の1割だという。あとの9割は業者が加工して売るか、条件付き土地という名の更地になる。つまり、適正な古家付き土地との出あいは稀少で、「その可能性はほとんどゼロパーセントに近い」とまで言い切る不動産屋さんもいる。あっても、道路付けが悪かったり、建坪率・容積率が悪かったりすることが多い、と。
しょげ返っている私に、不動産屋さんの彼はそっと教えてくれた。「そういう物件は待っていても一生ありません。手頃な物件で、売ってくれそうな雰囲気がしたら、ご自分で戸をたたいて交渉してみるのも手です」
最後に少しだけ希望をもらって、私はその店を後にした。古い物にもう一度命を吹き込むって、大変な手間と苦労がかかるのだなあ、と思いながら。