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問題の門扉。さてこれがどんなふうに変身するのだろうか? |
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すんでのところでアルミサッシになりかけた玄関の引き戸。 |
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玄関の鍵。くるくると回す昔ながらの鍵。これは調子がいいが、下部についた現代風の鍵の調子が悪い。で、もうひとつ増やすことに。 |
家を初めて見たときから、門扉が気になっていた。年季の入った重い木製で、木ということがまったくわからないくらい、べったりと暗いさび止めの塗料が施されている。遠目で見ると、いっけんスチールに見えて、なんとも味気ない。鍵は壊れていて、出入りするのにひと苦労。
即座に、不動産屋さんに
「借りるなら、門扉だけは直したい。自腹で、自分の知っている職人にお願いしたい」
と言ったが、すげなく却下された。
「手を入れる場合は、原状復帰が条件です。大家さんに許可を得てからにしていただきますが、まず無理でしょう。鍵だけ直せば使えますから」
借家である以上、当然の返答である。はあ、と生返事をしたまま、入居に至ったが、毎日使う家の顔のような部分だけに、気がめいった。昔のもので、重すぎて、子どもでは上手に開け閉めができないのだ。そして、何度付け換えても、木の上部が腐っていて、鍵がとれてしまう。
思い切って、不動産屋に電話したが、返事はノー。
「大家さん指定の業者を行かせますから、鍵だけなおしてください」
の、一点張りである。
あらためて、戸建ての門扉を注意して見てまわると、日本の門扉というのは、相当凝った日本家屋でない限り、味気ないスチールやアイアンで、デザイン性に乏しい。日本の住宅には、そもそも洋風の門扉は合わないのでは。みなほぼ同じ素材で同じ形。来客の目に触れる最初の場所なのに、玄関やアプローチは凝っていても、門扉はカタログで選んだような紋切り型が多い。
デザイン性だけでなく、使いやすく、防犯機能もあり、雨風への耐久性が強いものを求めると、一律にこうなってしまうのだろうか。門扉だけ、出来合いのものを選ぶので、なんだか家屋の表情とちぐはぐなのだ。
私はそういうスチールの味気ない門扉ではなく、木の仕上げが得意な、オリジナルの内装や外構部のデザイン・制作を請け負う知人に作ってもらいたいと考えていた。家の表情に合う、調和のとれたその家らしい門扉が欲しいからだ。
それから何日かして、先日、不動産屋から派遣された、大家さん指定の工務店の業者がふたりたずねてきた。ひとりは作業着を着た職人さんで、ひとりはネクタイを締めた工務店の管理職ふう。不動産屋が言葉を添えてくれたようで、門扉は劣化して危険なのでまるごと取り換えてくれるという。もうひとつ、鍵の調子が悪い玄関扉も「この際全部取り換えます」と言うので驚く。
大家さんから言われた予算内でできるのはこれですと、厚いカタログをみせてくれた。茶色のスチールの門扉と、アルミサッシの玄関扉が載っていた。大家さんもこれで納得されています、と言う。がくぜんとした夫は語気を強めた。
「玄関の木製の枠と磨(す)りガラスの引き戸にひかれて、僕らはこの家を借りようと決めたんです。こんなスチールのドアになったら家が泣きます。全然合わないじゃないですか。そう思いませんか?」
やみくもにデザイン的に変わったのが欲しいと言っているわけではなく、築40年のこの純和風木造家屋に調和した門扉や引き戸が欲しいと願っているだけなのだ。さらに夫は続ける。
「これはやめましょう。僕らが費用を出しますから、知り合いの木職人に作らせてください。大家さんにそう伝えてもらえませんか? この家に合う門扉を木で作ります。玄関扉は鍵をもうひとつ余分につけるだけで良いです。長く大事に使わせてくださいと」
ネクタイさんは、あきらかに困り顔である。最初に口を開いたのは、意外にもそれまで黙って後ろについていた職人さんのほうだった。
「この引き戸は、今じゃ珍しいんだよ。こんなガラスも今は手に入らない。アルミサッシにしちまうのは、たしかにもったいないよねぇ」
ネクタイさんも、つられるようにうなずいた。
「中は桧、外壁も国産のいい木を使っていたんだけど、昔、僕が知らない間に塗っちゃったんですよ。そのときはびっくりしましたねえ。ああ、もったいない、もうこんな外壁の家、近所にないのにってね……。わかりました。玄関はこのまま残しましょう。お子さんが留守番しても安全なように、鍵をひとつ増やしておきますよ」
その場の空気がふっとゆるむのがわかった。立ったまま、家を見上げながら4人でなんとなく世間話が始まる。職人さんは教えてくれた。
「この門扉の脇のブロックね、酸性雨で黒くなっちゃってるけど、大谷石なんですよ。大事にした方がいいですよ。やたらにコンクリートなんかで補強しないほうがいい。地震にも驚くほど強いんですよ」
「あの松もいいかたちをしてるねえ」
「ところで、あなたがた、どんなお仕事をしているの」
とても腹を割って話せそうにないと思っていた年輩のおふたりと、こんなにも和やかに会話ができるとは!
「じゃ、大家さんには私から話しておきます」
ネクタイさんはそう言って帰っていった。
翌日、彼の留守電メッセージが入っていた。
「大家さん、オッケーです! 門扉、おまかせしますとのことでした! よろしくお願いします」
弾むような声なので、おもわずこちらもうれしくなる。
あのふたりに、ああ、よかったねと言ってもらえるような門扉をこれから作らねばならない。