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「小さな家の生活日記」

セルフビルドの家をたずねて

2007年02月19日

 今週はたて続けに2軒、セルフビルドの家を訪ねる機会があった。造形作家と陶芸家で、ともに自宅にアトリエが必要な職業だ。既成の間取りではそれを確保できないという理由もあろうが、なにより、「自分の手でつくる」ということに抵抗がないという点でふたりは共通していた。

写真造形作家・丸林佐和子さんのご自宅。床、漆喰の壁、階段。すべて夫婦2人で仕上げた

 私が「すごいですね」を連発していると、本当に照れくさそうで、「そんなふうにいわれるほどすごいものではない。手抜きも良いところだ」とか、「お金がなかったから作るしかなかったのですよ」と笑う。

 何度も塗り重ねられた漆喰(しっくい)はところどころ厚みがあり、あたたかみを感じる。オイルステインを塗った床はムラがあって、逆にそれが味わいになっている。だが、おもしろいことに端から端まで、好きなものに囲まれているはずなのに、住んでいる本人は、「まだぜんぜん満足していない」と口をそろえる。あそこはこう直したい、次は子ども部屋を造りたいと、聞けば次々、具体的な構想が出てくる。何年たっても、セルフビルドの家には終わりや完成がないのだなあと知る。

 未完成の家など売り物にならないが、セルフビルドならつねに現在進行形だ。思い立ったらいつでもできるところがいい。「ここに暖炉を置けるようにしようと思って」と、しごく真顔で語っているのを見て、なんてぜいたくなことだろうと、しみじみうらやましくなった。

 子どもは成長し、親は老い、好みや住まい方は変化する。本来、住まいは完成形でなく、人に合わせてときおりマイナーチェンジできるような柔軟性があっていいと思う。一からセルフビルドをするほどパワーも想像力もないが、見よう見まねで、壁や床くらいはちょっとやってみたいと思っている私のような人間用に、家をできるだけ箱に近い形で買って、そこに自分たちの手でいろいろと継ぎ足していけたら、建売住宅でも楽しいだろうなあと思う。防水防火など、日本には厳しい法的な基準があるから、素人には難しいだろうが、何から何まで全部他人がつくった空間のなかで死ぬまで暮らすというのは、ちょっとなんだかつまらないような気がする。ここはもっとこうだったらいいのに、あそこにあんなニッチがあればいいのに、と思いながら暮らすより、下手でも自分でやれることはやる。そうやって、少しずつ自分の好きな空間にしていき、最期に、「ああ、いい家だった」と思えたらどんなにか幸せだろう。

 くだんの陶芸家の家の裏庭には、ブロックが四角く埋め込んであった。

次はなにをつくるのかと聞いたら、彼はにっこり笑ってこう言った。

「茶室を造ろうと思ってね」

 少年のように屈託のない笑顔だった。セルフビルドは、大人の最高にぜいたくな遊びの一つかもしれないと思った。

プロフィール

顔写真 大平 一枝(おおだいら・かずえ)

 長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、11歳、7歳の4人家族。

 著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、紙と人の心の絆を描いた「かみさま」(ポプラ社)。

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