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「小さな家の生活日記」

珈琲と新婚夫婦

2007年08月06日

 父親が珈琲(コーヒー)豆を扱う仕事をしていて、小さな頃から好んで飲んでいたという男性に珈琲をいれてもらった。

写真

3〜4年愛用しているポットは、オールドパイレックスのパーコレーター。9カップ用。ガラスは夏冬、それぞれに味わい深い

 70年代くらいの年季の入ったカリタのコーヒーミルで豆をひき、ハリタのサイフォンでゆっくり抽出。彼は言った。

「古くからある定番のコーヒーメーカーは、パーツ一つから交換できます。それがいいですよね」

 その場にいた人はみな、「たしかに」とうなずいた。

 私も、独身時代に電気のコーヒーメーカーを2台つぶしている。サーバーが割れたり、コードが故障したりしたから交換しようと思ったら、そういうシステムがなかった。修理に出そうと思ったら、買った方がずっと早いということに気づき、後ろ髪を引かれつつも捨てた。まだ使えるのに、小さな一部分が壊れただけでごみの日に出さねばならない、なんとも後ろめたい嫌な感じは、忘れられない。

 そう話したら、同席の人も「自分も、電気のコーヒーメーカーが壊れたので修理に出そうとしたら6000円といわれ、買い替えたことがある」と告白。案外、コーヒーメーカーに関して苦い経験をしている人は少なくないかも知れないと思った。

 私は結婚後まもなく、コーヒーメーカーが壊れてから買うのを辞め、以来ずっとペーパードリップ式だ。ドリッパーさえあれば、どこでも珈琲をいれられるし、場所をとらないのがいい。

 夫が、注ぎ口の長いホウロウのドリップポットで、そうっとお湯をまわし注ぐとおいしいのだと、どこからか聞いてきて、何年も鶴口のやかんを愛用していた。私の注ぎ方はドボドボと品がなくて、おいしくないらしく、毎朝、珈琲だけは夫の係となり、今に至る。保温がきかないので、のむたびにお湯をわかすが、もう習慣化していて、たいした手間には感じられない。ていねいにいれたものは、時間がたってもおいしく、冷めたまま飲んでいる。だから朝は珈琲を2杯ずつ。それが日課になって10年はたつ。

 さて、くだんのコーヒー談議はまだまだ続く。

「独身時代、どうしてあんなふうに場所もとって、パーツも交換できないプラスチックのコーヒーメーカーを、だれでも1台は持っていたんだろうね」

という話になった。ひとり暮らし歴の長かった女性が言う。

「ひとりだと、お風呂に入っている間にドリップしてコーヒーが出来ているとか、何かしている間にコーヒーができあがっているのが便利だからじゃない?」

 なるほど。私も家事をしながら、珈琲を多めに作っておいて、一日、ちょっと酸っぱくなったようなそれをのんでいたっけ。ひとりだと、とりわけ珈琲をていねいにいれたところで、喜んでくれる人は自分しかいない。どこかで、「飲めればいい」という意識があったような気がする。

 ポットで入れるようになったのは新婚時代からで、おいしい1杯のために小さな手間を惜しまなくなったのは、一緒に飲む誰かの存在が大きいのかもしれない。その証拠に、今でも夫のいない朝は、珈琲をいれない。そのへんのお茶やティーバッグの紅茶ですましている。

 とすると、珈琲という飲み物は、一緒に飲む相手がいるといないで、道具からいれかたまで変わるということか。

 電気のコーヒーメーカーのなかには、おいしくいれられて、パーツを一つから交換できるものもたくさんあるだろうが、独身時代に買ったのは、安物の「飲めればいい」しろものだった。あのころ、いい道具を買う余裕もなかったし、なにより、極上の1杯の喜びを分かち合う人もいなかった。

 そこでふと思い出した。サイフォンで、極上の1杯をふるまってくれた男性は、先月結婚したばかりの新婚さんである。──どうりでおいしいわけだ。

プロフィール

顔写真 大平 一枝(おおだいら・かずえ)

 長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、11歳、7歳の4人家族。

 著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(風土社)。

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