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「小さな家の生活日記」

棚がやってきた!

2007年08月13日

 知りあいにお願いしていたキッチンのスパイス棚が届いた。4段で、1段目は鍋とボウルを。2段目は瓶、3段目はこれと、サイズを測り、お願いした。開けると、予想をはるかに上回るすばらしいものに仕上がっていて、飛び上がって喜んだ。

写真入れる前
写真入れた後
写真タイルの色も、木造の家に合わせた

 じつは、家具製作専門ではない人にお願いしたので、たとえ気に入らないものがきたとしても、受け入れようと覚悟を決めていた。自分の希望通りにならなかったとしても、彼女の世界観がいいと思っておねがいしたのだから、あれこれダメ出しをするべきではないと思ったのだ。

 ところが、実際は予想以上だった。

 オーダーというのは、簡単そうに見えて、じつは発注する側も発注される側も難しい。サンプルもカタログもない状態で、我が家に合うたったひとつの家具を作らなければならないからだ。

 今回、すてきな物が仕上がったのは、なんにつけても「コミュニケーション」の成果だと思う。そう、家を建てるときの施主と建築家と同じである。といっても、何度も打ち合わせはしていない。彼女は車で2時間以上かかる地方に住んでいる。

 最初に私が彼女の家を見て、それから彼女が私の家を見に来た。その2回だけだ。半セルフビルドで、アンティークや古道具を愛する彼女の家を見て、嗜好(しこう)を共感できた。彼女は、人から家具のオーダーを受けたことがないと言っていたが、ためらいなく受諾してくれた。「おまかせするので、あなたらしいものをつくってください」と、私は言った気がする。

 翌月は、ありがたいことにわざわざ彼女が私の家をたずねてくれた。

 スパイス棚が置かれる場所を見て、うんうんなるほどと言ったくらいで、ラフを描くとか採寸はない。

 その後、「自分は茶、白、水色が好きだが、あなたはどんな色が好きか」というメールが来たので「ジャンクな白が好きです」と返信した。

 あとは、何を入れたいか、棚段の希望のサイズを書き込んだラフを2枚ファクスしただけである。

 届いた棚は、白の古材ふうのジャンクなもの。古い茶だんすの引き出しを解体して、予定にはなかった引き出しを三つ作ってくれた。引き出しの面だけペイントされておらず、古い木目がそのままに。アンティークふうのガラスのつまみがアクセントになっている。棚に並びきらない使いかけの細かいスパイス類を収納するのに最適で、感激した。すぐに電話で御礼を言うと彼女は言った。

「あの引き出しだけ色を塗らなかったのは、大平さんちの台所の窓枠が木だったから。それに合わせたんです。全部白に塗ってしまうと、和風のあの家では浮くと思ったので」

 うちに来てもらってよかったと、あらためて実感したのはそのときだ。もし、カタログやネットでオーダーしていたら、この仕掛けはない。自分では気づかないので、おそらく完全オーダーでも、「白が好きなのですべて白に塗ってください」とリクエストするだろう。作り手が、住み手の家を見るというのは、目のコミュニケーションのようなもので、何が好きで何が嫌いか、合う・合わないの本当のところを客観視してもらえる。それはとても重要なことだ。コーポラティブハウスの建築家も、「打ち合わせは出来るだけ、施主の家に行きたい。好みやライフスタイルが一目でわかるから」と言っていたのを思い出す。

 ガラスのつまみも、私の好みをわかっていないと選択できないアイテムである。そこまで細かく好みを話してはいないが、家を見ればわかるのだろう。小さなことだが、小さな発見から大きな満足が生まれる。毎日使うものだからこそ、「すべてお気に入り」にこしたことはない。

 我が家の木造建築に合わせ、ところどころ茶のタイルがあしらわれ、遊び心も感じられる。とにかく見ても使っても楽しい棚だ。

 大量生産の家具は、簡単に買えて楽だ。でも、少し待つことや手間をかける余裕があったら、ぜひ、この世に一つの手作り品を勧めたい。そしてできれば一度は、作り手に住まいを見てもらうこと。素人には気づかない視点で、その家に最適な一点ものがきっとできあがる。家具などそうそう買い替えるものではない。少し値が張っても、頑丈で使い勝手がよくてデザインもすてきで、毎日幸福な気持ちで使えるなら、後悔しないはず。

 高価なブランドの家具を買うなら、家に来られそうな範囲に住んでいる大工さんに、(できれば家具作家だけれど、どこにもいるわけではない)我が家に合う最高で唯一の1点をオーダーしたほうが満足度が高いと私は思っている。

プロフィール

顔写真 大平 一枝(おおだいら・かずえ)

 長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、11歳、7歳の4人家族。

 著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、紙と人の心の絆を描いた「かみさま」(ポプラ社)。

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