現在位置:asahi.com>住まい>小さな家の生活日記> 記事

PR 住まいの最新情報

「小さな家の生活日記」

高原と美術館

2007年08月27日

 美ヶ原(長野県)に行った。小学生以来で、こんなにも空気が美味しく、風がからりと気持ちよく、美しい場所だったかとあらためて実感した。きっと子どもの頃は花より団子。景色よりお弁当やおやつに夢中だったに違いない。

写真

  

写真

  

 見渡す限り緑の草原を、子ども達は虫を追いかけて走り回った。青い空と白い雲で、絵に描いたような夏の高原。そこで、多くの観光客が思うであろう疑問が頭をもたげた。

 なぜ、高原に美術館があるのだろう?

 一番高台に、巨大な「ヨーロッパ中世を思わせる古城」(HPガイドより)ふうの建物があった。

 箱根もそうだ。信州はとくに観光地に美術館が多い。

 高原は見るだけできれいなのに、そのうえになお美しい彫刻や海外の絵画を見る必要があるだろうか。ケーキがいくつも並んでいたら、ひとつのありがたみが目減りする気がする。ハレの日のケーキはひとつでいいと思うのはあまのじゃくな私だけか。

 美しい場所で美しいものをゆっくり堪能できるのは悪くないのかもしれないが、なぜここでビーナス像やダビデ像なのだろう。せめて、その地にゆかりのある人のアートなら、まだ納得がいくのだが。

 もしかしたら、あんなに奇抜で巨大なものではなく、自然と共生できるようなデザインの建物ならここまで思っていないのかもしれない。碌山美術館、信濃デッサン館、小さな絵本美術館など、私の好きな美術館は高原のど真ん中にはけっしてない。風光明媚ではあるが、自然を壊さぬようどちらかというとひっそりと佇んでいる。

 もんもんと考えているうちに、「これこそ損だ」と気づいた。こんなきれいな場所で、毒づいていることこそおろかでもったいない。おいしい空気をいっぱいすいこんで、ハイキングコースを歩いた。いくら歩いても、空も草原も変わらずそこにあって安らぐ。下界の猛暑がうそのように、空気がひんやりと爽快だ。この先何十年もどうぞこのままで、と心のなかで願った。

プロフィール

顔写真 大平 一枝(おおだいら・かずえ)

 長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、11歳、7歳の4人家族。

 著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(風土社)。

 ホームぺージ「暮らしの柄」 http://www.kurashi-no-gara.com/別ウインドウで開きます


小さな家の生活日記 バックナンバー

バックナンバー

このページのトップに戻る