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「小さな家の生活日記」

八百屋にて

2007年10月15日

 野菜のほとんどは、生協と有機農家から宅配してもらってまかなっている。それでも週の終わりになると何かしら足りなくなって、八百屋に走る。スーパーだと、余分な物を買ってしまうので、よほどのことがない限り行かない。地元には八百屋が4軒ある。そのうち1軒は去年、大型スーパー開店の2〜3カ月後に閉店。「いらっしゃいいらっしゃい」の店主のかけ声が活気があって好きだったので、閉店したときはとても悲しかった。

写真

庭でとれた木瓜(ぼけ)の実はホワイトリカーで漬け、八百屋で買った生姜はレモンを入れてウオツカで漬けてみました。

 いや、悲しいというより自分に対して悔しかった。小売店のコミュニケーションがいい、小さな店を守ろうなどといいながら、私はその八百屋をあまり利用していなかったのだ。古くて良いものがなくなるのを惜しんだり、大資本の便利で安易なものを責めたりする前に、自分が行動しなければ。

 その思いがあって、一番近所の八百屋と酒店だけは守ろうと思っている。うちの利用なぞたかが知れているが、もうあの、何もしなかった自分に対する悔しい思いを味わいたくない。

 さて、その、私が勝手に守ろうといきがっている小さな家族経営の店でのきのうのできごと。

 トマトを買おうと探したら、熟した200円のと、形の整った高級そうな330円の山があった。私は見比べながら、つぶやいた。

 「トマトが欲しいんだけど…」

 ご主人が聞いてきた。

 「どっちがいい?」

 「うーん、スープにしたいんです」

 「なら、熟しているからこっち」

 ご主人とおかみさん(たぶんご主人のお母さん)が、同時に200円を指さした。安い方を勧める商売なんて、ほかにあるだろうか。

 隣のお客さんが、ご主人に話しかけている。

 「この間、この料理なら銀杏が入っていればいいのにって、だんなに言われたのよ」

 「へえ、なにつくったの」

 「えーと、忘れちゃったわ」

 「わっははー。そりゃいけねえや」

 「この間買った水ナス、おいしかったらまた買おうかしら」

 「あいよ。もうすぐ水ナスのシーズンが終わっちゃうからね」

 そうか、水ナスは9月で終わりなんだなと知る。思わず、水ナスに手が出てしまった。脇に、皮付き里芋と、ビニール袋に入れた皮むき里芋があった。袋の口は輪ゴムで縛ってある。ご主人か、おかみさんが皮をむいたのだろう。少し、茶色の部分が残っている。スーパーの皮なし里芋は、防腐剤なのか漂白剤なのか真っ白だが、こちらはいかにもさっき手でむきましたという風情。仕事帰りで、これから制限時間20分で夕食を作らなければならない私は、皮なしを買った。傍らの大きなぬか漬けの樽には、おいしそうな大根や人参が。きゅうり1本、かぶ1個から買えるのはありがたい。スーパーのパックの漬けものは、望んでいない野菜までセットになっているからだ。いつかはやりたいが、まだ自分にはぬかを漬ける余裕がないので、今しばらくはここのぬか漬けに世話になる予定だ。

 かように、町の青果店ではいろんな旬の情報と会話がある。料理の手間を省いてくれる手作りのくふうもある。

 確たる理由もなく昔ながらの八百屋さんはいいと言ってるのではなくて、明らかに、確実に、小売店は便利!主婦の味方なのである。

プロフィール

顔写真 大平 一枝(おおだいら・かずえ)

 長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、11歳、7歳の4人家族。

 著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(風土社)。

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