現在位置:asahi.com>住まい>小さな家の生活日記> 記事

PR 住まいの最新情報

「小さな家の生活日記」

まな板の失敗

2008年01月28日

 まな板を新調した。

写真

そんなまな板で切った三浦大根と手羽中の煮物。こういう料理にプラスチックはとことん合いません……。

 取材で、まな板の両脇に脚がついているものが使いやすいときき、何年も探していた折に、雑貨店で外国製のプラスチックの脚つきを見つけ、購入。使い始めて1カ月が過ぎた。

 そもそも、なぜ脚が付いていると使いやすいかというと、表裏両面使えるので、調理中いちいち洗わなくてもよい。違う食材を切りたくて、急いでいるとき(私の場合、たいてい、調理は急いでいる)ひっくり返すだけで汚れがシンク面に付着せず、新しい面を使えるというわけである。

 取材でみたのは、木製のまな板で、両脇に2センチほどの立ち上がりが付いていた。しかし木製はいくら探してもなくて、私が見つけたのは白いプラスチックである。

 白だし、すっきりおしゃれでいいなと思った。両脇に脚があって、プラスチックなので裏面の中央に、肉用の滑り止め加工もされている。なるほど便利と衝動買いだった。

 いざ使ってみると、思い通り使いやすい。表で肉を切っていて、次に野菜を切りたいとき、とりあえずひっくり返してすぐ使える。丈夫で長持ちしそうなところもよい。だが、たったひとつ違和感があり、残念なことに日増しに大きくなる。

 それは音である。

 当たり前だが、プラスチックに刃を当てるときの音が、木とは全然違う。大根を切るとき、ストンストンといわずに、カチンカチンと鳴る。何を切っても、刃を当ててはいけないものに当てているような、金属と金属がぶつかるような、台所には不似合いなほどの機械的で大きな音がするのだ。

 それでも最初は、つとめて気にとめずにいた。だが、小さな心のシミが、日増しに墨汁のように滲んで広がっていくのがわかった。

 この「何か違うな、いやだな、こういうので食べるものを切りたくないな」という感覚は、以前体験していて、本欄にも書いた覚えがある。新巻鮭をよく切れるドイツ製のキッチンばさみでザクザク切るあの感覚。うどんをトングですくったときのあの違和感である。

 どんなに便利でも、その国で育った食材をその国で大事にされてきた道具で調理するのが基本だと思う。

 日本の台所で、日本の食材を切るのだから、やはりまな板は木で、トントン軽い音がしなければ、自分の中に流れる血が落ち着かない気がする。早朝、母の台所から聞こえてきた味噌汁の具を切るまな板と包丁の音の記憶。冬のみずみずしい大根をストンと出刃包丁できるときの清々しさ、リズムに乗ってキュウリを薄切りしていくときの小気味よさ。木のまな板と包丁には、日本人の食文化の記憶が全部すり込まれていて、私たちは、音で手加減やあんばいの感覚を体に刻んでいったのではないだろうか。

 調理中にまな板を洗う回数を減らそうという横着な気持ちが招いた自らの失敗をのろいつつ、今日も白いまな板に向かう私なのである。

プロフィール

顔写真 大平 一枝(おおだいら・かずえ)

 長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、12歳、8歳の4人家族。

 著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

 ホームぺージ「暮らしの柄」 http://www.kurashi-no-gara.com/別ウインドウで開きます


小さな家の生活日記 バックナンバー

バックナンバー

このページのトップに戻る