2008年2月25日
息子の分まで2つ持たせてくれた。もったいなくて食べられないササキさんのお菓子。
「もうすぐおひな様だから、これ、お嬢ちゃんに」
ササキさんが、色とりどりのかわいい金平糖や飴が入った袋をくれた。
「よく、おぼえてくださって! ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
ササキさんは「もうずいぶん大きくなったことでしょうね」と、目を細めた。2年も前に退居した私の顔と家族構成をよく覚えてくれているものだと思う
そういれば、先日、コーポラティブハウスの管理組合の総会で、彼の名前が出たばかりだ。
ササキさんは長年、派遣で、我がコポーラティブハウスに通ってくださっている清掃員である。最初は管理会社のA社から派遣されて来ていた。もうお孫さんがいる年齢と聞くが、週3回、朝早くからマンションの清掃作業と植栽の水やりを担当してくれている。どうかすると向こう三軒くらい隣の住宅まで清掃をするので「そこまでしなくていいですよ」と何度か言ったことがある。出勤や登校の入居者に、いつもとびきりの笑顔で「おはよう。行ってらっしゃい!」と声を掛けてくれる。ほうきとちりとりを持った佐々木さんに玄関で見送られて仕事に出ると、とても清々しい気分につつまれたものだ。
A社からB社に管理会社を変える話が出たときは、入居者同士で話し合って、「どうか、ササキさんだけは替えないでいただきたい」とかけあった。そんな流れで異例の契約変更となり、今もササキさんはB社から派遣され、私たちの住まいに通ってくれている。
先日の総会では、「もう長くおつとめになってくれているが、これからもできるだけ長く来ていただきたいので、ササキさんの待遇をよくするようなことはできないか」という話が出た。我々がそんなことを言うのも僭越だが、と。仲介の会社が入っているため、それほど簡単に話は進まなかったが、私と同じく、うちのコーポラティブハウスの住人はみんな、彼のことが大好きなのだということだけは、よくわかった。
私は、種々の都合で今はしばらくコーポラティブハウスを離れ、徒歩数分のところに住んでいるが、用事で寄ってちょっとすれ違っただけでも、冒頭のような気遣いをしれくれる人なのである。きっとほかの世帯の子どもにあげるつもりで、お菓子を持ってこられたのだろう。もちろん、ほかの部屋の子もササキさんのことが大好きだ。12世帯、30人以上が出入りする集合住宅で、週に3回、2時間(の契約で、ササキさんはいつも3時間近く作業をしている)清掃にくるだけの関係の中で、子どもの顔や年齢を覚え、その都度あたたかい声をかけてくれる。
赤やピンクが詰まった小さな袋を玄関に飾った。娘が学校から帰ったらさぞかし喜ぶことだろう。「あ、ササキさんに会ったの?」と。娘は、3年前にもらった、ミッキーマウスのキーホルダーを今も大事にしている。

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、12歳、8歳の4人家族。
著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。
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