2008年4月14日
もっとちゃんと撮っておけばよかったのですが……。
毎日ドタバタの6年間の労をねぎらいあうため、A君の母ら、働く母7人で卒業旅行。お花見をするまもなかった私たちの目の前に、不意に満開の桜。これも巣立ちのはなむけか。
小学校卒業式の朝。息子は、ぶかぶか新品のブレザーを着てほおを紅潮させている。私はといえば、この日くらいはゆとりをもって迎えたいと思っていたのに、案の定そうはいかず、半徹明けの眠たい目をこすりながら、日頃履き慣れぬスカートを箪笥からひっぱりだしては、ためつすがめつしている。
自分のスーツを1着くらい買おうと思っていたのに、デパートに行く間もないままこの日に至ってしまった。
ブラウスにスカート。ありあわせの一張羅を着てみたが、どうも胸元が寂しい。晴れやかな門出にふさわしいコサージュ(生花や造花のブローチ)などで彩りを添えてみたいものだが、そんな気の利いたものも持っていない。
横で、息子が近所の同級生A君に「学校に一緒に行こう」と時間を打ち合わせしているので、切り際、「電話、替わって!」と受話器をもぎとった。
「もしもし、A君のママに替わって」
「……ああ、は、はい」
A君は、慌てている私の様子にたじろぎつつ、自分の母親に電話を替わった。私は、早口で彼女にたずねた。
「忙しい時間にごめん。いきなりだけど、コサージュ2個、もってないよね?」
「それが私もひとつも持ってなくて、きのう自分でどうにか1個作ったのよ。コサージュって高いし、案外いいデザインのがないのよね」
「そうなのよ」
「役に立てなくてごめん」
彼女は申し訳なさそうに電話を切った。あと30分で卒業式が始まる。
コサージュをあきらめ、ビデオとカメラをたずさえ、家族4人で急いで学校に向かった。
会場に着くと、A君の母親に呼び止められた。
「これ、じつはポプリで匂いがきついんだけど、よかったらつけてみて」
差し出された箱には、淡いベージュピンクのポプリにリボンが縫いつけられ、裏には安全ピンが細工された、お手製のコサージュが入っていた。ポプリはインテリアとして家に飾ってあったのだという。本来は匂いを楽しむためのものだが、コサージュに代用できる! と思いついたらしい。
だれもが忙しい卒業式の朝、あの30分の間に、家の中を見回して思いつき、作ってくれたのだ。
「サンキュ!」
簡単な言葉しかでなかった。何か言うと、泣きそうだったからだ。
彼女も私も、共働きで保育園のときから一緒。夫も忙しくてどうにもやりくりできないときは、お互いに子どもを預け合ってのりきったこともある。夢をかなえ、2年前から3坪の小さなケーキ屋さんを開いた彼女はさらに大忙し。子ども二人の面倒を見ながら、毎晩、自宅でケーキを焼き、朝は下の子を保育園に送り届けてから店に出る。彼女だって今朝だけのんびりできたはずはない。そんななかのさりげない気遣いがなにより胸にしみた。
記念写真に収まった私の胸には、彼女の作った可憐なコサージュが彩りを添えてくれている。見るたび、あなたも仕事に育児に6年間よくがんばったね、とねぎらわれ、私まで卒業を祝ってもらっているような気持ちになる。
どんな高価なコサージュにも負けない、卒業の朝の忘れられない贈り物、誇らしいはなむけである。

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、12歳、8歳の4人家族。
著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。
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