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センス・オブ・ワンダーの人

2008年6月30日

写真新築の友だちの家におじゃました。テラスは自作。開放感あふれるアウトドア・リビングが誕生した。

 珍しく落ち込むことが続いた。ご飯を食べていてもため息が出る。テレビを見ても、上の空だ。

 さて、このストレスをどうやって解消しようかとあれこれ、無い知恵を絞る。ヨガでも始めてみるか。あの本を読んでみるか。それとも、ちょっと遠くに行ってみるか。

 と、そんな私におかまいなしに、娘が今日学校であったことを話し出す。

「○○ちゃんが、なんでも話したあとに“かんぱ〜い”って言うんだよ」

 小学生に人気の芸人のまねらしい。

「給食でゴーヤが出たんだけど、まんなかがくりぬいてあって、挽肉がつまってんの。すっごくおいしかったから、ママ、家でもつくって!」

 中学の息子が口を挟む。

「あ、そのゴーヤなら食べられそう。かあさん、つくってよ。そういえば、今日の弁当に入っていた甘い梅、おれ、きらいだから。もう入れないで」

「えー、あたしは甘梅、だあいすき! おにいちゃん、食べ物の好みがコドモなんだよ」

「うるせー。コドモのおまえに言われたくねえよ」

 延々と脈絡のない話が続く。

 語尾に「乾杯」を言うコドモを想像したら、思わず笑いがこみあげる。そうなんだ、コドモってやつはいつだって目の前のことにしか興味がない。過去も未来も、大人ほど執着しない。ああすればよかった、こうすればよかったと悔いるより、たった今、目の前にあること、今日という一瞬に夢中になる。だから、子どもの時分は、1年間がとほうもなく長く感じられるのだろう。

 ということは、そんな人たちを相手にする育児というのは、目の前のことに、一緒に夢中になれるという意味で、長い目で見るとじつは貴重な機会なのかもしれない。今日の空はキレイだよ。あ、その言葉、おもしろいね。漢字テストで80点、お、なかなかじゃん、で書けなかった字はなに。そんなことに子どもと一緒に一喜一憂できる歳月なんて、ほんのわずか。だったら、もっと今を楽しまないと。

 本も旅も逃避でしかない。目の前にいる、心も身体もおそろしいスピードで毎日成長する人たちと、この家にいるだけでいい。日々、センス・オブ・ワンダーを更新している人たちから、元気が伝染する。レイチェル・カーソンは、「自然は神秘と不思議に満ちている」と書いたが、家のなかでもセンス・オブ・ワンダーは日々、体験できる。やかましくて、わがままで、手のかかるめんどうな小さい人たちがいるだけで。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、12歳、8歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

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