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引っ越しの挨拶の品・考

2008年10月20日

写真  写真農園で取材&撮影。ランチは、持ち寄りパーティーふうになりました。

 若い人に、「ひとり暮らしなんですけど、引っ越したら挨拶回りは必要ですかねえ」とときどき相談される。「できれば僕、そういうのめんどくさいんで避けたいんですけど」と。

 私は決まってこう答える。

 「ひとり暮らしだろうと何だろうと、両隣くらいは絶対にした方がいいよ」

 家庭持ちなら、「向こう三軒両隣。それにお向かいさん、斜めお向かいさん」にもしたい。子どもがいつなんどき、迷惑をかけるかわからないからである。子どもの騒ぐ声も、住宅密集地ならその範囲くらいまで波及するだろう。

 アパートやマンションのひとり暮らしなら、せめて両隣。私は鍵を忘れて隣のベランダから入ったことが何度かあるので、とくにそう思う。顔見知りでなければ、とても頼めないことだった。挨拶をしたからといって、勤めや学校に通っているもの同士、顔を合わせることもないかもしれない。それでも、しないよりした方がずっと安心だ。人は互いに迷惑をかけあいながら生きる社会的動物なのだから。

 「では、挨拶の時、何を持って行ったらいいんでしょうかねえ。手ぶらでもいいッスか」

 これについては、一般論ではなく、私の個人的な経験でしか言えないが、「もらって嫌な人はいない。印象に残り、顔を覚えてもらえる」的な意味で、やっぱり、ないよりあったほうがずっといい。

 ではなにがいいか。負担にならない、せいぜい数百円のものでいいと思うが、案外、タオルやハンカチくらいしか思いつかないものだ。いまどき、ちょっといいハンカチさえ千円はする。もらってもさほどうれしくない品質のものをさしあげるのは、無用の長物になるだけで無駄だ。

 引っ越しの多い私には、いつもこれがちょっとした難題で悩む。今の家に越してきたときは、はりきって近所の和菓子屋に紅白饅頭を注文して、小さな箱に紅白2種をいれて配ったが、相手の家族の人数がわからなくて失敗した。生ものなので早く食べなければならないし、和菓子が苦手な人もいたはず。どう考えてもこれはミスセレクトであった。

 逆にもらってうれしかったものの筆頭は、小さな箱に入った和三盆である。それをいただいたのはちょうど秋で、栗、もみじ、木の葉の形を模した色とりどりのかわいらしい和三盆が、箱に8〜10個ほど並んでいた。きめの細かい上砂糖である和三盆の干菓子は、来客時のコーヒーに添えると喜ばれる。日持ちがするし、どこででも買えるものではないのでうれしい。これも好みがあるだろうが、少なくとも日持ちのするもの、持ってきた人の個性やセンスが伝わるようなものだと、ご近所さんを理解する手だての一つになる。袋入りの白いタオルは、のっぺらぼうのイメージがある。

 和三盆をくださった人は、多忙な作家で、挨拶に来られたときはびっくりしたが、それまで文壇の華やかなイメージしかもっていなかった私は、季節のこういうささやかなものを愛でる方なんだなと、どこかほっとした記憶がある。「事務所として使いますが、騒いだりすることはないのでご安心ください」とその人は言った。そういわれなくても、秘書と一緒に自ら菓子箱を持って挨拶に回るその姿勢に、とうに安心していた。

 さて、私以上に、引っ越しの多かった母に「印象に残った挨拶のいただきものは?」を聞くと、「はがき」という答えが返ってきた。

 官舎に暮らしていて、3〜4年に一度は、同僚の入退居があった。そのなかに、きれいな包装紙にはがきを10枚包んで、挨拶に来た奥さんがいたそう。

 「なんて気が利いているんだろうと思ったよ」

 ワープロもパソコンもない時代だ。はがきはいくらあっても困るものではなかったという。自分も転居したときには、転居通知をしたためるので、それにも使える。「センスのある人だなあ」と母は感心したらしい。きっと、こまやかな気遣いが出来る人に違いない。

 タオル、てぬぐい、ビール券、せっけんにお菓子。いろいろ迷うが、メーンはていねいな挨拶であり、それらは添え物だ。

 「まあ、けっきょくはなんでもいいんじゃない? 気持ちが伝われば」

 と、くだんの若者に、中途半端なアドバイスを送って終わってしまった。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、12歳、8歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

ホームぺージ別ウインドウで開きます「暮らしの柄」

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