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たたむ収納、たたむ文化

2009年10月19日

写真スウェーデンの室内インテリアをみるたび、思い出されるのは不思議と日本の住まいのことでした……。(スカンセン野外博物館)

 スウェーデンを旅したとき、考えたのは日本の住文化のことだった。ストックホルムのホテルも、田舎のサマーハウスも、その狭さは日本と変わらない。だからよけいに、双方を意識するようになった。なかでもとくに違いを感じたのは、収納法である。

 しみじみ、日本人は狭いところで暮らす智慧がたけているなあと実感した。たとえば布団はその象徴である。就寝の場が折りたたんでしまえるなんて、西欧の人には驚きのはずだ。ベッドと小さな机でいっぱいのストックホルムのホテルの部屋で(それが三つ星や四つ星だったりする)、これが布団だったらもっと空間を広々使えるのに、息苦しさがやわらぐのに、と思った。

 布団だけではない。着物もあんなに真っ平らにコンパクトにたたむことができて、どんな季節のどんな人の着るものも同じモジュールでしまえるなんて、なんと合理的なことか。

 北欧は、キャンドルと照明の国で、どの家でも上手に光を演出していたが、日本の提灯は、使わないときはあんなに薄くたたむことができる。そういう照明の道具は、西欧にはみあたらない。

 風呂敷、蚊帳、三面鏡。ほかにも、日本にはたたんでしまえる便利な生活の道具がたくさんある。

 狭い国には狭い国なりの智慧と工夫が生きているのだ。この辺は、私たちはもっと誇ってもいい。

 今、仕事の関係で昭和20年代の邦画を集中的に観ている。総じて、一般庶民の家の部屋の“何もなさっぷり”に驚く。シンプルで質素。ちゃぶ台、茶だんす、座布団。部屋は必要最低限のものしかない。戦後の貧しさやゆたかさに関係なく、この国には、部屋に余分なものを置かないという文化が源氏物語の時代からあり、その美学がまだこの時代には脈々と流れ受け継がれているのだと思う。長屋だろうとお屋敷だろうと、ふすまを開け放したら、ワンルームになり、茶の間にも寝室にも宴会の場にもなる。一つの空間を多重に利用する住まい方は、まことに合理的だ。

 それにしてもよくここまでものがなくてすむものだと注意して見入っていたら、「そうか、クローゼットがないのだ」と気づいた。着物のようにたたむのではなく、クローゼットのようにそのままつるす収納は、日本の狭い家をさらに狭くしたように思う。

 シンプルに、少しでも家を広く使いたいなら、いっそ洋服をやめて着物生活か? とも思うが、そんな勇気はない。

 ただ、もう少し私たちは、このたためる文化を見直し、再評価すべきではあるまいか。

 スウェーデンのすてきなクラフトショップで、美しいラッピングをしてくれようとするのでもったいないと思い断ると、当然ながら商品をそのまま渡された。そんなとき、自分のバッグから染めの鮮やかな紫紺の風呂敷を出して、しゅしゅっと自分で包むことができたら、さぞ粋だろうなあと思う。

 最近は、折り方、たたみかたの作法を教えてくれる教室もあると聞く。

 自分の生まれた国のことを見つめ直すという意味でも、旅には意味がある。ちょいと包み方教室、のぞいてみようか。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、14歳、10歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

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