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建物が人生を変えるということ〜後編〜

2009年12月28日

写真お正月後も使える和洋折衷のしめ飾りのリース 写真倉庫だったところにバスタブを設置。給湯設備もあとからつけた。 写真日本とフランスの雑貨が混在するmitta店内

 カフェに行く途中、道に迷って遭遇した長屋に一目ぼれし、フランスと日本の雑貨を扱う店を開いてしまったmitta(ミッタ)店主、山西利恵さんのお話の続きを。

 はっきりとなんの店にするか決めないまま、とりあえず建物の補強を大工さんにお願いし、自分もガラス戸の木枠にペンキ塗りをしていた山西さんは、ある日、工事中の家の前を通りかかった骨董好きの男性に声をかけられる。

 「なんの店になるの?」

 「ええ、まだはっきりしていないんですが、手づくりのものとか、日本とヨーロッパの雑貨なんかを……」

 「ああ、じゃあ僕の知り合いにフランス人の雑貨バイヤーがいるから紹介してあげるよ」

 そして後日、ふらりと現れたのがベテランのフランス人バイヤーの紳士だった。彼は彼で、大手を手がけることが多いので、mittaのような都心の小さなショップでは、実験的なことができるのでメリットがある。互いの思惑が一致し、山西さんは、個人では入手できないような良品を次々仕入れることができるようになった。

 なんだかミラクルな話だが、山西さんと話していると、そんなこともあるだろうという気がしてくる。まじめでまっすぐで、一生懸命なのだ。ふらふらと自分探しをして迷っているだけの人ではない。仕事を辞め、これからは誰のいいなりにもならず、自分で身を立てていくのだという凜とした気合がある。好きなこともわかっている。手づくり、日本とヨーロッパ、古いもの、暮らしを楽しくしてくれるもの。

 ただ、それを生計につなげる手だてがわからなかっただけだ。だから、通りがかりの人にヒントをもらい、人と人がつながっていくと、からまっていた糸がほどけるようにすんなり1本の道が見えてきたのだろう。

 2年ほどバイトをしながら週に半分店を開いていたが、3年目の今は、「おかげさまでバイトをやめ、店に専念することができました」とうれしそうに教えてくれた。まだまだ財政的には厳しいものの、経営のめども立ってきたのでバイト生活にきりをつけたという。

 店を開くためのハウツーが書かれた本がたくさん出ているが、現実は、強い志と、当面はバイトと二足のわらじでいくかもしれない覚悟と、出会いという少しの運が必要だ。

 山西さんは言う。

 「この家に初めて出会い、足を踏み入れたときに“この空間には人格のようなものがある”と、ふっと感じました。あたたかさというか、有機的な存在感というか、古くておおきな木に宿っている独特の気配のようなものです」

 この家と出会ったのは偶然であり、運である。

 けれど、築80年を超える長屋に建物の魂を感じ、あたたかさとして受け止め、その“人格”を生かした商品を売るようになったのは、山西さんにしかない感性でありセンスであり才能がなしたことである。

 山西さんが発案し、日本のクラフト作家にたのんでつくってもらった注連縄とペッパーベリーなど洋風の木の実やドライフラワーをアレンジした和洋折衷の「しめ飾リース」は12月の人気商品である。しめ飾りとリースを合体したもので、リースの水引をとれば、正月後は洋風のリースとしても楽しめる。そんな山西さんのオリジナルのアイデアあふれる日本とフランスの雑貨やクラフトが店には所狭しと並ぶ。

 まだまだこの空間から発信していきたいことや物がたくさんありそうだ。店裏や2階の住居スペースまでかまう時間がないと笑うが、今は店のほうを充実させることが楽しくて仕方がない様子がうかがえる。

 山西さんは長屋を借り、店を始めるまでことこまかに日記代わりに親友にメールを送っていた。その親友が、山西さんからのメールで一番印象に残っているのは次の言葉だ。

 「なんか私、長屋と結婚するみたいな気分やわ」

 その話を聞いて私は思った。本当に建物には人格があり、キャラクターがあるのかもしれない。だとすれば、山西さんはけっこう幸福な結婚をしたのかもしれない。3年目の今やバイトもやめてmitta一筋なのだから。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、14歳、10歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

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