現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 住まい
  4. 小さな家の生活日記
  5. 記事

9年いまむかし 「足りないくらいでちょうどいい」

2010年4月5日

写真我が家はソファテーブルもなし。家族もゲストもちゃぶ台ひとつで全部済ます。

 たぶん、本欄の連載は今日から9年目に入る。たぶん、というのはすでに過去ログもなく、担当編集氏も「コーポラティブハウス編」から数えると4人異動していて、そのうえ自分のデータもCD−Wに記録したままどこかにしまいこんでしまったため、どうにも確認できないからだ。書くことに精一杯で整理ができないという致命的な私の欠点はもう直りそうにない。

 そんなわけで、たぶん、きっと、99%の確率で、今日から9年目。毎週ご愛読ありがとうございます。心から御礼申し上げます。

 この9年の間に、息子は中3になり、娘は小5になった。家族の年齢が変われば、ライフスタイルも日々のリズムも少しずつ変わる。欲しい家具、欲しい家電も変わってくるのでおもしろい。

 仕事でもインテリアや人の住まいを訪ねる取材が多いので、刺激を受け、自分の住まい観も変わる。時代も変わっているのだから、当然である。

 たとえば10年前はイームズのミッドセンチュリーモダンや、アアルト、ハンスヴェグナーなど北欧のデザイナーズ家具が全盛だった。私も、ル・コルビジェのジェーズロングという寝椅子が欲しかったが、知り合いに「あなたの家には合わない」と言われてやめたと9年前の著書に書いている。今読み返すと、恥ずかしいくらいである。なぜそんな高価な椅子が欲しかったか、よく思い出せない。きっと雑誌にカッコイイ部屋の実例写真などが載っていて、ふっと憧れたりしたのだろう。若い頃は、自分の嗜好も固まっていないのでしかたがない。あれもいいこれもいい病にふりまわされ、手痛い失敗を経てぶれない自分にたどり着くものだから。こんな事を書いている今だって、完全にぶれていないわけではない。素敵な家に行ったら、すぐ影響されて帰ってくる。「薪ストーブっていいよ〜。ピザも焼けちゃうんだって」と興奮気味に話す私の話を家人は適当に聞き流している。「薪って、この東京でどうやって調達すんねん。空気も汚れるし」と。

 9年前あんなに欲しかった食器洗い機が、今の家にはない。慣れない育児と仕事の両立に四苦八苦し、1日24時間では全然足りない頃、一番欲しいのが食器洗い機だった。だが今は、子育てもずっと楽になり(というより手を離れすぎて寂しいくらいだ)、仕事と育児以外に自分の時間ももてるようになった。皿洗いは、母モードから仕事モードへ気持ちを切り替える生活の句読点のようなもので、あまり苦にならない。ライフスタイルは変わるのだ。

 あらためて痛感するのは、住まいは引き算だということだ。家を建てるときはあれもこれもと、足すことばかり考えていたが、なければないで知恵を絞るようになる。そういうなかにささやかな喜びがあったりするのだと、これはこの歳月を経て発見したこと。子どもの勉強机がない間はちゃぶ台でしのいだ。カチャカチャ皿を洗う横で子どもが宿題をしていると、わからないときはすぐそばに行けて楽だ。子どもが今何を習っているかもわかる。電気ポットや魔法瓶も我が家にはないが、湯の沸く微妙な時間の違いで季節を知る。調味料やカトラリーをしまう収納棚を通販で買おうとも思ったが、もらいものの古い医療用カルテの引き出しがこぶりでちょうどいい大きさでキッチンで重宝している。知恵を絞り、工夫をして、それが成功すると、お金と引き替えに買った物よりずっと嬉しく愛おしくなる。

 壁も空間も余白が大事。いかにすっきり、いかに持たずに暮らしに余白を作れるか。買ってすませる足し算より引き算のほうがずっと難しいものだ。

 そして吹けば飛ぶよな家でもいい。家は箱でしかない。そこに暮らす人間同士がどう絆を紡いでいくか。そっちにうんと努力をして腐心した方がいい。家を建てる人やこれから建てたいと考えている人は、設備や素材や仕様やデザインに一生懸命だと思うけれど、「足りないくらいでちょうどいいですよ」が、今の私ができるリアルなアドバイスである。そのほうがくふうするからきっと楽しい毎日になります。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、14歳、10歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

ホームぺージ別ウインドウで開きます「暮らしの柄」

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介

提携サイトで探す

  • 全国の売買物件をお探しの方アットホームスーモ
  • 全国の賃貸物件をお探しの方アットホームスーモ
  • 不動産会社をお探しの方アットホームスーモ

あなたの希望に沿った不動産情報・マンション情報を検索!

カテゴリ
都道府県

あなたの希望に沿った不動産情報・マンション情報を検索!