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自宅内早朝勤務 過ぎ去ってみると…

2011年4月18日

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写真:早朝勤務時代の子ども部屋。ここで添い寝をしながら自分も一緒に就寝。絵本が本棚からはみ出し、椅子にもぞんざいに詰まれている……。拡大早朝勤務時代の子ども部屋。ここで添い寝をしながら自分も一緒に就寝。絵本が本棚からはみ出し、椅子にもぞんざいに詰まれている……。

 子どもが0歳と4歳といったまだ小さい頃、やむにやまれず「早朝勤務シフト」を編み出した。夕方6時に仕事終了。そこからお母ちゃんの時間になって、保育園へ迎えに行き、風呂に入り、食事を作り、一緒に食べる(食事の前に一緒にお風呂に入ると子どもの情緒が落ち着き、夜までぐずらない。裸同士で触れ合うと、たっぷり甘えることができるので、安心するのかもしれない)。夜はゆっくり、絵本を読んだりして過ごし、一緒に9時半ごろ寝てしまう。そして朝3時に起きて8時まで原稿を書く。

 早朝は電話も鳴らなければ、メールも宅配便もこない。スッキリした頭で集中できるので筆が進む。なにより、子どもに「1分でも早く寝て欲しい」と、どこかでイライラしながら寝かしつける夜から解放されたことが快適だった。ゆっくり布団の中でおしゃべりやら絵本やら。「一緒に寝てしまってOK」な状態を作ると、気持ちがゆったりする。子どもにも伝わるようで、そんな時の方がずっと寝付きがよかったりする。

 そういう生活が10年くらい続いた。早朝勤務は生活のリズムになってくれば体もラクで、驚くほどたくさんの仕事もこなせるのであった。

 ところがあっという間に子どもは大きくなり、添い寝など必要のない年齢になってしまった。

 いつしか早朝勤務の習慣はなくなり、元の宵っ張りに戻った。夜11時からニュースを見て、それから入浴をして、12時過ぎからパソコンに向かったり本を読んだり。「自分時間」などと言うと聞こえはいいが、ほとんどはパソコンで不動産情報を見比べたり、メールの処理をしたり、どうでもいいサイトをながめているだけだ。

 思えば、早朝勤務時代よりずっと、パソコンに向かう時間が増えた。子どもの顔より、この四角い箱を眺めている方がはるかに長い。ひどいときは、夕食後からずっとパソコンをさわっていることもある。子どももいい年なのだから、顔をつきあわせている必要もないのだが、あの頃、パソコンやテレビに自分の時間をからめ取られないようにしようとあんなに頑張っていた自分はどこに行ったのだろうと思う。

 子どもが小さいころは、もっと時間が大切だった。小さいのに、自分は働いている、日中離れている、さみしい思いをさせているという負い目がどこか頭の隅っこにいつもへばりついていたから、夕方から寝るまでの子どもと一緒にいるわずかな時間をとりわけ大事にした。手のひらですくいあげた時間が、指の合間からひとつもこぼれおちないように、必死だった。

 絵本をひとりに4冊ずつ、ひと晩に8冊読むということが一時あったが、少しも苦ではない。離れていた昼間の時間をここでとりもどしてやるんだという気負いが原動力だったかもしれない。

 しかし、今の私のこのとりとめもない時間の使い方はどうだろう。「ママの好きなお笑いやっているよ」と娘が声をかけてくれても「あとでね」と自分の仕事部屋に行く。うちの子が幼いのか、よその子もそうなのわからないが、大きくなっても子どもは時々自分の好きな番組を親にもみてもらいたい、一緒に笑いたいというときがあるようだ。

 「このコンビ、きっとママが好きなタイプだよ」と、お気に入りのお笑い芸人が出てくると、私を呼びに来る。笑うと「ほらね?言ったとおりでしょう」というようなうれしそうな顔をする。高1の長男は、さすがに親など呼ばぬが、それでも長友の名シーンやヨーロッパ一のサッカーチームが日本にエールを送るシーンなどは「見てみなよ、感動するよ」とビデオに撮ったものを何度も勧めてくる。

 大きくなっても子どもは子どもだなあと思う。自分の好きなものは親にも好きになって(あるいは認めて)欲しいのだ。テレビ番組もガールフレンドも、ロックバンドも洋服のブランドも。

 自宅内早朝勤務シフトを敷いていた頃のように、もう少し時間を大事にしよう。やがて子どもたちは家を出る。その日まで、今までがそうだったように、きっとあっという間だ。べたべた一緒の部屋にいることはないが、この電子の箱に時間を明け渡すのはほどほどにして(ただでさえ、昼間はずっとこの箱と付き合っているのだから)、なんとなく気配で家族を見守ろう。

 ツイッターなんかを始めて、ますます夜遅くまでパソコンにかじりつくようになっていたので、戒めもこめて。外より内側を見つめ直したい。最近、そういう心境が強まっている。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、15歳、11歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

ホームぺージ「暮らしの柄」

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