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シンプルライフ考 捨てられないものとの付き合い方

2011年7月11日

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写真:ストックホルムの雑貨屋で買った思い出のグラス。1000円くらいの安物だが、ビールも冷茶もジュースも何でも似合う。拡大ストックホルムの雑貨屋で買った思い出のグラス。1000円くらいの安物だが、ビールも冷茶もジュースも何でも似合う。

写真:やかんがわりに毎日使っているオールドパイレックスのパーコレーターの蓋。皿の上に落としてひびが。拡大やかんがわりに毎日使っているオールドパイレックスのパーコレーターの蓋。皿の上に落としてひびが。

写真:おおやぶみよさんの工房で買った再生ガラスの鉢。拡大おおやぶみよさんの工房で買った再生ガラスの鉢。

 前回捨てられないもののことを書いた。今回はそのなかのひとつを紹介したい。全く使えないのに処分できないもの。それは割れたガラスの器である。口に入るものなので小さなヒビでもたいていものは処分するが、どうしても捨てられないガラスがある。

 ひとつは、旅先のスウェーデンで買った1000円ぐらいの安物。もうひとつはオールドパイレックスのパーコレーターのふた。やかんがわりに毎日酷使している。三つ目は沖縄で買った作家の再生ガラスでつくった鉢だ。

 こうしてみると、価格や人から見た価値は全く関係なく、自分にとってどれだけ大事か、思い出がこもっているかが、捨てる・捨てないの分かれ道のようだ。

 かといって割れたものをどうするでもなく、そのまま大事に包んで今の家に持ってきた。使えないのだけれど、日にかざしたり眺めるだけでもきれいなので、意味もなく日当たりのいいキッチン前に置いていた。

 そんなとき、取材で金継ぎが好きな人に出会った。彼女のもちものは、美術品級のものが多く、金継ぎをお願いしている漆芸家も当時は大学生だったが、今は大学で美術を教えているという。どれも金継ぎしたことであきらかによくなっているというか、新たな美しさが増しているのが素人目にもわかる。金継ぎはただの修復ではなく、古来から伝わる装飾の美である。割れた部分をつぎながら装飾を施し、その善し悪しを愛でる人たちもいる。

 けれど、彼女が直したものはすべてが美術品級ではなく、旅先で買った安い土産物もあった。また、ガラスも継いだというので驚いた。捨てるかそのまま残すかしか選択肢がないと思い込んでいた私にとって、それは刺激的な発見であった。

 そうか。日常使いの雑貨だろうと何だろうと、自分が気に入っているものは継いで直せばいいのだ。日本の伝統的な金継ぎは接着剤などケミカルな材料は使わず、漆をはじめとする天然素材のものを使って時間を掛けて継ぐ。だから買った値段より高くなることもあるし、金継ぎの専門家もいれば、漆芸の作家が手がけることもある。

 私の持っているガラスなど、どれもたいした金額ではなく、継ぐほどの価値はないかもしれないが、自分にとってはかけがえのないもの。長く大事に使いたいから直す。そこに「安物だから」というような理由や躊躇はいらないのだということを教えてもらったような気がして嬉しくなった。

 かといって、高いお金は払えないので、いろいろ探して、金継ぎ修行中という若い女性のウエブサイトを見つけた。ベトナムのひとつ300円のグラスの修復にチャレンジしているところに興味をもった。おそるおそる、「失敗してもかまわないし、納期も急いでいない。骨董や美術品ではなく、気に入っている日常使いの器を長く使いたいと考えているが、チャレンジしていただけないか」というメールを出すと、すぐに長い返信がきた。「ふだん使っているものを、天然のものを使ったつぎの技術で、新たな形で長く使いたいという気持ちは、自分が修行しているものにとても近い」と記されていた。

 かくして、お気に入りの3つは彼女の元へ。どんな姿で生まれ変わって返ってくるかはこれからのお楽しみだ。

 捨てたらこの楽しみはなかった。直すことで、また新しい私とモノとの物語が始まる。シンプルに暮らすというのは、持たないとか捨てるとかいうことではなくて、一つ一つのモノとのつきあいを深める、親しく付き合うということではあるまいか。人にはキャパシティがあるから、あれもこれもとそう深く付き合うことはできない。となれば必然的に持ち物は減る。

 きちんと対峙して長くつきあえるモノを選ぶこと。それがシンプルライフの第一歩かもしれない。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、15歳、11歳の4人家族。

著書に、『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)『自分たちでマンションを建ててみた。〜下北沢コーポラティブハウス物語〜』(河出書房新社)、『かみさま』(ポプラ社)など。【編集または文の一部を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』『loving children』(主婦と生活社)、『ラ・ヴァ・パピヨン』(講談社)。最新刊は、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』『スピリッツ・オブ・ジャンク・スチル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)の3部作。

ホームぺージ「暮らしの柄」

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