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2012年2月20日
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「小さな家の生活日記」

味噌の寒仕込み、終了

文と写真:大平一枝

写真:家中の鍋やボウルに大豆を入れ、ひと晩水につける。拡大家中の鍋やボウルに大豆を入れ、ひと晩水につける。

写真:圧力鍋で数分煮た豆をとりだし、つぶす。最初はすり鉢でなく鍋でやっていた……。拡大圧力鍋で数分煮た豆をとりだし、つぶす。最初はすり鉢でなく鍋でやっていた……。

写真:麹と塩を混ぜ合わせたものに、すりつぶした大豆を混ぜ込み、団子を作る。拡大麹と塩を混ぜ合わせたものに、すりつぶした大豆を混ぜ込み、団子を作る。

写真:容器にたたきつけるように入れる。(空気を抜くため)拡大容器にたたきつけるように入れる。(空気を抜くため)

写真:熱湯消毒をした容器にならして入れ、薄く塩で蓋をする。仕込み完了!拡大熱湯消毒をした容器にならして入れ、薄く塩で蓋をする。仕込み完了!

 まるで何とかの一つ覚えのように、この時期が来るとマニュアル通りに味噌をつくる。生協の麹の欄に丸をつけ、翌週届いた日にいちばん近い日曜が、自動的に味噌づくりの日になる。

 ものぐさな私が味噌をつくれるのはこの生協のおかげだ。丸をつけたら、いやでも翌週に麹がどかんと届いて、この麹菌をだめにさせないために塩と大豆を用意し、早々に仕込まなければいけなくなるからだ。

 味噌づくりは、夏でも冬でもできるが、私は雑菌が繁殖しないよう2月にする。寒仕込みという。始めた頃は、塩も大豆も届く手作り味噌せっとというものにしていたが、そのうち塩は天日干しのこの産地のものを、大豆は有機のこのお店のものをと自分で揃えるようになった。といっても、本当に味噌に必要な材料はこの三つだけ。それだけで、あんなに複雑でおいしいものが出来るということ自体、不思議でならない。

 つくづく発酵のなす力には脱帽する。ちなみに、味噌屋のホームページによると、「こうじ」は醸(かも)すの名詞形の転化だそう。なるほど、麹は日々何かを醸し出している気がする。味噌樽が醸し出すあの香りも季節ごとにかわり、菌が生きていることを実感する。

 大豆をひと晩水につけたら、小さな家庭用の圧力鍋でせっせと煮て、すり鉢でつぶす。立派なすり鉢がないので、丼さいずの小さなものに少しずつ入れてはつぶす。圧力鍋→つぶすの作業を10回以上繰り返し、今度は麹と塩をもみこんだものとすりつぶした大豆を混ぜ合わせ、味噌団子をつくる。

 家族4人が1年分食べる分をつくるには、こんな間に合わせの道具で十分である。無心に作業を繰り返す時間や、麹の匂いが好きで、できるだけひとりのときにつくる。ひたすら集中したいので、家族が寝静まった深夜に取りかかったり。夜中の2時頃には味噌の仕込みが終わり、麹の力で手の甲はすべすべになっている。これでまた1年間はおいしい味噌が食べられると思うと、達成感でいっぱいになる。

 3〜4か月後、どんな具合に仕上がっているか楽しみでたまらない。こんなに簡単で、こんなに旨いものがひと晩でつくれてしまうのに、何枚かのコインとひき替えに市販品を買ってしまうのはもったいない。よけいなものを入れず、自分で選んだ原材料だけでつくれる安心感も大きい。

 手作りの品にはもっと面倒なものもの沢山あるのだろうが、味噌に関する限り、材料もつくりかたもシンプルこのうえない。あとは、菌と塩と空気が仕上げてくれる。人間はじっと樽を見守るしかすることがない。

 北海道から沖縄まで、それぞれの地に個性的な味噌があるのは、高度な技術や特別な材料がいらないからだという。米麹、麦麹などその地でとれる穀物を使って麹をつくるから、味も土地ごとに違う。地産地消というと、こだわった自然派の食生活を連想するが、難しいことではないんだなと思う。近所で麹を買い、地元の大豆を手に入れ自分で数キロも味噌を造れば、それだけで毎日、地産地消のひと品を食べていることになる。

 数キロならマンションの狭い台所にも置ける。良質のタンパク質を大量に含んだ日本のソウルフード。手作りする人は増えているが、この手軽さがもっと認められて、少し前の日本のように、家庭ごとに手作りしたら楽しい。家庭ごとに味が変わるだろうから、少しずつ交換したらもっと楽しみが広がる。

 実家の母は、近所の奥さんが漬けたたくあんを「これどうやって漬けたの? 柿の葉いれるの? どれくらい?」とよく質問していた。母だけでなく、うちにきた母の茶飲み友だちも互いにそういう会話をよくしていた。いいと聞けばとりいれ、少し味が落ちたら原因をつきとめ、家族のために去年より今年もっとおいしくしようと工夫を凝らす。家庭の味とはそういうものなのだろう。かつて手作りは、台所を司る女たちみんなの関心事だった。

 来年は、違う塩に目をつけている。その前にこの間漬けた味噌、どんな味になるかな。今から夏を心待ちにしている。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、16歳、12歳の4人家族。

著書に『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつ のわが家』(講談社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(チルチンびとの本)など。【編集または取材を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』(主婦と生活社)、『続 暮らしのヒント集』(暮しの手帖社)など。最新刊は『もう、ビニール傘は買わない。〜暮らしと自分を変える60の習慣〜』(平凡社)。

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