最近、ご近所の奥さんからこう言われた。
「大平さんといいご近所づきあいができそうだなって最初に思ったのは、引っ越しのご挨拶(あいさつ)の品をもらったときよ」
昨年6月に引っ越してきたとき、隣近所の8軒にタオルを配った。そのとき、家族全員の名前と子どもの年齢を書いたメモをつけた。なぜ8軒かというと、我が家は袋小路のどんづまりにあり、路地の両脇に家がそれだけあるからだ。狭い路地を車輌が行き来したらうるさいだろうし、前の家でもそんな付き合いをしていたので、配るなら路地の家すべてにと思った。
そのメモが嬉しかったと彼女は言った。
「挨拶に来られても、お子さんの名前までは普通わからないでしょ。ああ小学校6年、うちと同じね。○○ちゃんって言うのねって、わかるとわからないとでは心の距離感が違ってくるよね。それに、こういうメモを配るなんて、ご近所づきあいが好きな人なんだろうなって思ったよ」
このメモは、私の発案ではない。コーポラティブハウスを建てたときの風習を真似ただけである。
住人同士で建設組合を結成し、2年かけて集合住宅を作るコーポラティブハウスでは、工事の着工前に、住人全員のプロフィールとひと言コメントを一覧表にして近所に配った。仲介役のコーディネーター会社のアイディアだが、自分がもらっても嬉しいし安心するだろう、と感心した。欄外には「なにかご迷惑がありましたら下記に御連絡下さい」と明記してある。
長い時間をかけて作るため、騒音や車輌の占領など近所からのクレームも少なくない。そのクレームをスムーズに、角を立てずに言いやすい環境を作ることは、その後の生活にもいい影響を与える。建てたら建てっぱなしではなく、その後の生活こそメイン。未来永劫、近所といい関係を保つには、案外こうした小さな配慮が奏功するものだ。
コーポラティブハウスに限らず、去年の我が家のように賃貸住宅への引っ越しであっても、狭い路地ではいろんな人に迷惑を掛ける。また、隣は何をする人ぞ、ではつまらない。挨拶のついでに自己紹介カードも入れたら、その後の付き合いがスムーズになるだろうと真似てみたのだった。
だからといって、今の路地では前の家みたいにBBQに呼んだり、野菜の苗を分けてもらうまでの付き合いはない。前述のママに娘のお古を回したり、手作りマカロンをお裾分けしてもらったりと、ぼちぼちマイペースで交流を温めている。
いまのところ、8枚のタオルのうち1、2枚分の付き合いしかないが、あのメモは入れて良かったと、10カ月たって実感している。そして、モノより気持ちなのだなあ、と当たり前のことを再確認している。

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、16歳、12歳の4人家族。
著書に『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつ のわが家』(講談社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(チルチンびとの本)など。【編集または取材を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』(主婦と生活社)、『続 暮らしのヒント集』(暮しの手帖社)など。最新刊は『もう、ビニール傘は買わない。〜暮らしと自分を変える60の習慣〜』(平凡社)。
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