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2012年10月15日
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「小さな家の生活日記」

逆転の発想 駐車場が「庭」に

文と写真:大平一枝

写真:平松邸の玄関までのアプローチ。照明がともった夜も素敵に違いない拡大平松邸の玄関までのアプローチ。照明がともった夜も素敵に違いない

 実際の心境はわからないが、取材をしていると「無理難題があった方が燃える」というタイプの建築家が多いように思う。予算がないというのはどの物件にも共通しているのだろうが、それ以外に「狭い」「通風または採光に恵まれない」「密集地」「建坪率・容積率が厳しい」などなど、一筋縄ではいかない物件ほど建築家の力量が試される。

 そして、私などが取材に行くのはたいてい、そういった負の要素が満載のケースで、それをどうクリアしているか、というところが取材のテーマになったりする。

 恵まれた立地、恵まれた予算の中で素敵な家が建ったところで、あたりまえすぎて記事にはならない。デメリットをメリットに転換するような逆転の発想があるから、プロの仕事は面白いし、読者の役に立ち、住宅記事として成立するのだ。

 先日、ご近所に住むイラストレーターの平松昭子さん宅へ行った。旗竿のような敷地の一角にある建て売り住宅とのことだが、玄関までのアプローチが見事な庭と飛び石の通路になっていて驚かされた。玄関まで数メートル、毎日こんな素敵な空間を通って帰宅するのはさぞ気持ちいいだろうなあとしばらくみとれ、それから「ああ、これは敷地延長の部分だ」とあとから気づいた。

 道路に接するように細い敷地が突き出すように伸ばす「敷地延長」は一般的に日当たりが悪いなど、不利と言われる。それを平松さんは逆手にとって、ほっと一息つける小さな緑の空間をつくったのだ。まさに逆転の発想。彼女は絵を描く人だけに、キャンバスに絵を描くような自由な発想で自分流の解釈をして、住空間でもオリジナルの快適を追求している。ある意味、建築家以上にしなやかかもしれず、羨ましく思った。

 この敷地も最初は、不動産業者に勧められるまま駐車場にしていたという。だが、家に帰ると、通路いっぱいに止まっている車がまず目に飛び込んできて、その脇をすり抜けて玄関扉までたどりつく過程があまり好きになれなかったそうだ。

「ああ、家に帰ったって、ほっとする感覚が全然なかったの」

 さらに、毎回狭いところに冷や冷やしながら駐車するのも疲れる。実際、お隣の塀にぶつけてしまったこともあったという。

 玄関までのアプローチは、その家の顔のようなもの。やはり、小さくてもいいから土と緑が欲しい。カースペースではなく、家に帰ったときにほっとできるような、心和む「通路」としての空間をもっと楽しもう。平松さんは発想を逆転させ、おもいきって駐車場を別に借りることにした。それはそれで出費のかさむことだが、毎日目にする場所が満足のいく空間になって、念願の緑と土も見られるのなら駐車場代を払っても惜しくない、と判断したのだろう。

 その気持ちは、庭のない家に住む私にはよく理解できる。駐車場代とてべらぼうに高いわけではない。それとひきかえに、数メートルの美しい空間が得られるのなら、悪い選択ではない。

 かくして、信頼できるランドスケープデザイナーや庭師といっしょに、置き石、水鉢、ほのかな灯(あか)りの庭園灯などが草木とマッチした素敵な通路兼庭が誕生した。

「朝には朝の表情があり、夜に灯りがともるとまた違った夜の雰囲気が出て、ちょっといいんですよ。思いきって駐車場をやめてよかったなあって思います」

 と平松さん。表札やゴミ置き場だけでなく、ちゃんと自転車用スタンドも設置されていて、ただ眺めて気持ちがいいだけでなく、機能的にも有意義な空間になっていた。

 住まいというものには決まりがなくて、自分が建築家になったつもりで自由に楽しんでしまえばいいのだなあ。つまり、楽しんだもの勝ち。あきらめてしまったらもったいないし、つまらないのである。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、16歳、12歳の4人家族。

著書に『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)『かみさま』(ポプラ社)『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(チルチンびとの本)など。【編集または取材を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』、『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』(主婦と生活社)、『続 暮らしのヒント集』(暮しの手帖社)など。最新刊は『もう、ビニール傘は買わない。〜暮らしと自分を変える60の習慣〜』(平凡社)

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