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2012年10月29日
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「小さな家の生活日記」

“ちゃぶ台”のあるニッポンの風景

文と写真:大平一枝

写真:着席時間10分。朝はせわしなくご飯をかきこんでいます。拡大着席時間10分。朝はせわしなくご飯をかきこんでいます。

写真:宴会をしました。子どもも詰めて座り、お酒タイムになったら抜ける自在さも円形の利点。拡大宴会をしました。子どもも詰めて座り、お酒タイムになったら抜ける自在さも円形の利点。

 朝はテーブル、それ以外はちゃぶ台を使っている。

 どちらが好きか、あらためて中1の娘に聞いてみると、「ちゃぶ台」と即答だった。理由は「テーブルはせわしない感じがするから」というぼんやりしたもの。でも、親子だからだろうか、言わんとしているニュアンスはとてもよくわかる。ゆったりしたものなら違うのかもしれないが、我が家の四角いテーブルだと、きっちり食べることだけを目的にした感じがほんの少し窮屈に感じられるのだ。そのうえ安物の椅子をそろえたので、長く座っていると疲れる。

 丸いちゃぶ台は、座る場所も毎日わずかに変わる。不思議なもので、その日の気分で収まりの悪い位置、いい位置というのがある。だからいつも各々が左右に移動し、適当に座る。そのなんともいえないゆるさが楽なのである。また、直径が120cmあるので、対角線上に座ると少し遠い。その遠さがよいのか、食べたり、ビーズクッションの座布団に寄りかかって休んだり、飲んだりしながらわりにゆっくり時間が過ぎてゆく。

 小さな頃は食べる順番を注意したり、よく噛(か)んでなどと口うるさく言ったものだが、大きくなってくると、いろいろ話せる空気をつくることのほうが大事になってくる。だから、威張れた話ではないけれど、我が家ではまるで居酒屋のようにくつろいで、好き勝手なことを話したり飲んだりしながらおかずをつついている。

 ちゃぶ台生活は17年目。ただ、慣れというほかに、日本人ならではの情動も無関係ではないように思う。

 映画『3丁目の夕日』を見るとほっとなごんで温かい気持ちになったり、日本茶や畳の匂いをかぐと落ち着いて呼吸が深くなったり、日本海のカモメを見るだけで切ない気持ちになる。我が家なんぞフローリングにちゃぶ台で和洋折衷もいいところだが、日本人はやっぱり地べたに座って食べるちゃぶ台だよなあ、としみじみ思ってしまう。

 そう思う記憶の奥底に、実家のこたつや映画で見た畳の上の食卓の残像がある。お父さん、お母さん、子どもの席。食べたらたたんで端に置かれ、布団が敷かれる。私にとって家族の団欒(だんらん)の象徴が、その簡易な丸い食卓だったのかもしれない。

 と、こんなふうにちゃぶ台はテーブルよりいいもんだと思い込んできた。

 ところがあるとき、取材でリビングがないという家を見た。民芸店の店主の私邸で、こだわりのある大きな家である。だが、ダイニングルームしかない。リビングがないのでソファもなく、ダイニングの中央にでんと、黒光りした古い松本民藝家具のテーブルがあるだけである。来客を迎えるときはサイドテーブルを合わせて大きな卓にするという。

 家族はどこでくつろぐのだろうと思いながら腰掛けてみると、松本民藝家具の堅牢な椅子が実に座り心地がよい。すべて手作りという座面のえぐりがちょうどよくお尻を包み、曲げ木の肘掛けがこれまたちょうどいい位置にあって腕を支えてくれる。

 店主の家族は何十年も、ここで食事をして、ここで語り合い、くつろいできたという。本当に座りやすい椅子とテーブルならば、何時間でも過ごせるのだ。重厚なそのダイニングセットから、家族とどういう時間を過ごしたいかという父の思いが伝わってくるようだった。

 つまり、ちゃぶ台かテーブルかという話ではないのである。

 食卓とは、その家の真ん中にどっしりと卓があり、座りやすければ椅子でも床でもいい。家族が長くいて疲れず、ほっとできて、何時間でもいられる。それこそが団欒の象徴になる。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、16歳、12歳の4人家族。

著書に『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)『かみさま』(ポプラ社)『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(チルチンびとの本)など。【編集または取材を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』、『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』(主婦と生活社)、『続 暮らしのヒント集』(暮しの手帖社)など。最新刊は『もう、ビニール傘は買わない。〜暮らしと自分を変える60の習慣〜』(平凡社)

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