コーポラティブハウスを建ててから12年が経った。先日、住人の奥さんと映画を見に行った折、しみじみと語り合った。
「あの頃、システムキッチンは設備が過剰で重苦しいというイメージがあったよね」「よい部材をつかって、できるだけシンプルに見えるオーダーキッチンに憧れたし、実際流行ってた」
彼女はオリジナル家具やキッチンを作るインテリアメーカーにキッチンをフルオーダー。好きなサイズ、好きな仕様で天然木の扉が美しいキッチンを手に入れた。だが、今はこうつぶやく。
「なんでもシンプルにって思ってたけど、システムキッチンも機能的で全然悪くないよね」
私もまったく同感だった。当時の我が家は予算がなかったため、一番安い標準装備に、メキシカンタイル屋のつまみだけ付け替えた。余裕があったらインテリアメーカーにお願いしてみたかったなあと憧れたものだ。
彼女のような木の質感を大事にしたシンプルでナチュラルなオリジナルキッチンや無駄なデザインが一切ない厨房用のステンレスキッチンが流行っていて、雑誌の特集でも、そういったものがメインビジュアルになることが多かった。
キッチンメーカー製の鏡面加工のピカピカしたものはなんだかみんな同じに見えて、抵抗があったのかもしれない。もっとオリジナルで自分らしい造りのものがほしい、と思っていた。クローズ型に代わりオープン型のキッチンがではじめ、面材や扉の取っ手、換気扇のデザインにもこだわる人が増えたことも関係していただろう。
いまや、日本製のシステムキッチンも面材の種類が増え、開閉も静かでスムーズになった。シンク下も開き戸型ではなく引き出し型が主流になり、死角が消えて収納量が倍増。まな板スタンドやキッチンツール置き場まで設けられ、至れり尽くせりだ。
狭く限られた空間を120%生かし切る収納が考えだされ、この12年でも進化をとげている。木目調だけでなく本物の木製のカウンタートップもリーズナブルなオプション価格で出てきた。日本のシステムキッチンメーカーもなかなかやるな、と最近は取材のたびに実感している。
冒頭の彼女も同じように感じているようだ。「あれはあれで設計も楽しかったし、満足しているけど、あそこまでお金をかけて凝らなくても良かったかなって、ときどき思ったりする。今のシステムキッチンって見た目に過剰じゃないし、すごく使いやすそうだもん」
家を建てるときは、キッチンに大きな夢を託したくなるもの。だが、もっと賢く節約して、別の場所にお金をかけてもよかったなどと、いまさら言ってもどうしようもないことを小さく悔やんだりする。年を取るとはこういうことなのか。
コーポラティヴハウスも12年目ともなると給湯器や食器洗い機など故障が増え始めるので、今は住人同士、もっぱら修理や設備機器を買い換えるための情報交換をしているという。
10年後にはどんなことを思うのだろう。時代、家族構成、ライフスタイルによって嗜好(しゅこう)は変化する。そのときどきで自分に合うようにくふうしながらやっていくしかない。そういういろいろに折り合いをつけながら日々を整えていくのが暮らすということなんだろう。

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、16歳、12歳の4人家族。
著書に『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(チルチンびとの本)など。【編集または取材を担当したもの】『白洲正子の旅』、『藤城清治の世界』、『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』(主婦と生活社)、『続 暮らしのヒント集』(暮しの手帖社)など。最新刊は『もう、ビニール傘は買わない。〜暮らしと自分を変える60の習慣〜』(平凡社)。
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