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2012年12月24日
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「小さな家の生活日記」

コーポラティブハウス、12年目の逡巡

文と写真:大平一枝

写真:娘と息子。体だけは大きいが……。拡大娘と息子。体だけは大きいが……。

 あきれた話としか言いようがないが、また引っ越しをすることになるかもしれない。今の家に住んだのは1年9カ月。自分でもばかばかしすぎると思う。

 14回目となる今度の引っ越しの理由は、現在貸しているコーポラティブハウスの住人が退去するというもの。その賃料で、私の住んでいる借家の賃料をまかなっていた。コーポラティブハウスに戻るという選択を前提に、建築家とリフォームの相談をしたり、この1カ月はことのほか忙しかった。

 引っ越しは大好きだが、予算のこと、設計のこと、時期や家具の処分など、さすがに検討することが多すぎて疲れてきたというのが正直なところである。もうどうでもいいなあ、家族4人が楽しく過ごせれば、と半ば自暴自棄にもなっている。間取り図を見るだけでワクワク目の色が変わっていたかつての自分が嘘のようである。

 戻るとなると120平方メートルから75平方メートルにサイズダウンになるので、ほとんどの家具を処分しなければならない。荷物も半分以下に減らさないとまずいが、それだけでは収まりそうにない。コーポラティブハウスを設計してくれた建築家に家を見てもらうと、「お子さんの部屋を二つ設けて、書斎に壁とドアをつけ、キッチンと和室の収納をメインにしたリフォームを考えると最低500万はかかります。へたすると1千万かかるかもしれない」とのこと。思いがけない数字に、目を白黒させてしまった。

 コーポラティブハウスの他の住人からは「戻っておいでよ。大平さんの仕事場だけ外に借りればいいじゃん」とよく言われる。それしか方法はないかなあとワンルームを別に借りる検討も始めた。だが、ふと気になって、中1の娘に聞いた。

「お母さんが外に仕事場を持ってもいい?」

 娘は案の定、こう答えた。

「原稿書きで部屋から出てこなくても何でもいいから、ただいまって帰ってきたときに、いてほしい」

 やっぱり、と私は心の中で苦笑する。生後2カ月からベビーシッターやら保育ママさんやら保育園に預けられてきた娘にはこういう所が昔からある。中学生の今でも、私が取材で出ていて、無人の家に帰るときはわざと大きな声で「ただいま!」と言うらしい。「そうしたらちょっと淋しくなくなるから」と。

 だからといって母親とべったりでもないし、むしろ「干渉しないで」といつもは悪態ばかりついている。だが、家の空間のどこかに、人の気配が欲しいのだ。私も鍵っ子の経験があるので、その気持ちは少しだけわかる。

 中学生にもなって今さら鍵っ子も何もないものだが、外に仕事場を作ろうかとインターネットでワンルームを探す私をちらちら気にしている娘の表情を見ると、どうせいつか巣立つのだから、もうしばらくは一緒にいてもいいだろうと思えてくる。それが子どもの自立を妨げることになるのかは、私にはわからない。

 ただ、帰宅したら「おかえり」と言い、塾に行くときは「行ってらっしゃい」と言い、夕方洗濯物を取り込み、19時過ぎたら米をとぎ始める。原稿書きで家にいる時の、15年以上変わらない生活のリズムは崩したくない。おやつなど作れないし、平日は布団さえ干す暇もない。10時から19時までびっちり仕事部屋にこもっているが、それでも一つ屋根の下、家族の気配を感じていたいという娘の気持ちをもうしばらくの間、大事にしようと思った。

 さて、75平方メートルの2LDKに男女の子ども部屋と、クローズの仕事場(現在はリビングに面した半オープン個室)を確保できるのか。難題が多く、まだ結論は出ない。本当に戻れるのか。あるいはいっそ売却するか。夫との話し合いは続く。ひとつだけわかっているのは、高い家賃の今の家からは近々越さなければいけないということだ。

 12年前にコーポラティブハウスを建て、その2年後から始まった本欄の連載はあと1回で終了するが、まさか最後まで引っ越しに迷い、こんなふうにあわあわしているとは。なんて落ち着きのない人生なんだろう。自分のことながらつくづく呆れている次第である――。

プロフィール

大平 一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。女性誌や文芸誌、新聞等に、インテリア、独自のライフスタイルを持つ人物ルポを中心に執筆。夫、16歳、12歳の4人家族。

著書に『見えなくても、きこえなくても。〜光と音をもたない妻と育んだ絆』(主婦と生活社)、『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『世界でたったひとつのわが家』(講談社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)『かみさま』(ポプラ社)『センス・オブ・ジャンク・スタイル』(チルチンびとの本)など。【編集または取材を担当したもの】『白洲正子の旅』『藤城清治の世界』、『昔きものを買いに行く』(以上「別冊太陽」)、『lovehome』(主婦と生活社)、『続 暮らしのヒント集』(暮しの手帖社)など。最新刊は『もう、ビニール傘は買わない。〜暮らしと自分を変える60の習慣〜』(平凡社)

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