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今週は賃貸契約の特約条項に迫ります。
回答者 弁護士・安彦和子さん
契約に特約条項がある場合、敷金の扱いはどうなりますか。(前回から続く)

 文字通り、契約書の最後に「特約事項」とあったり、「明渡し」の条項の中に書かれていたり、特約条項にはさまざまな書き方がありますが、大別すると二つに分けられます。一つは、リフォームなどの「原状回復義務を負う特約」、もう一つは、「修繕義務を負う特約」です。多くの裁判が起こされていますが、ほとんどの判例でいずれの特約も制限されて解釈されています。

 原状回復義務を負う特約は、契約書の中に「貸室明け渡し後の室内建具、襖、壁紙等の破損、汚れは一切賃借人の負担において現状に回復する」、「賃借人は、自己の費用をもって原状回復の処置をとって賃貸人に対し明け渡す」といった条項があるのが典型的な例です。

 多くの裁判では、このように契約書に書かれていても、家賃の中に借り主が通常に使用していて汚れたり劣化したりする分の費用を含めていると解釈されるので、借り主が「通常でない使用による損耗など」の費用に限って負担すると解されています。つまり、前回説明したように、費用を負担しなくてはならないかどうかの分かれ目は、通常の使用状態か否かであり、「契約書に書いてあるから支払わなければならない」と鵜呑みにする必要はありません。

最近の契約の中には、「退去時に、リフォーム代として5万円支払う」など、具体的に金額が明示されているものがあると聞きます。こうした場合も同様ですか。

 契約の時点では、借り主がどの程度の期間住むのかはっきりしない場合もあるし、借り主がどの程度の注意を払って住むのかも分かりません。そうした将来の不確定さがあるのに、事前に具体的なリフォーム金額を支払わせる契約の内容には疑問が残ります。例えば、きれいに住んでいて、事情があって契約して3カ月で退去する場合に、5万円のリフォーム代は明らかに過大です。契約書に書いてあるからといって、必ずしも支払う必要はないと思います。

修繕義務を負う特約とは、どのようなものですか。

 具体的には「マンションの専用部分についての修理、取り替え(たたみ、ふすま、障子、ガラス、照明器具、スイッチ、壁、床、その他の建具、浴槽、風呂釜、その他小修理)は賃借人の負担において行う」などと書かれていることが多いです。

 この特約の場合も、契約書にそう書かれているからといって、そのまま借り主が修繕の義務を負うとは解釈されません。この特約は、最高裁の判例(1968年=「賃貸人において修繕義務を負わないという趣旨に過ぎず、賃貸人が義務を負う趣旨ではない」)で借り主が修繕義務を負うのではなく、本来は貸主が負担すべき修繕義務を免除しているに過ぎないと解釈されているからです。修繕義務は本来大家さんにあります。これを負担することは、借り主が通常負担すべき義務(注意を払って住むなど)とは別の義務を負うことになります。そうした理解をして特約したとは理解されないのです。

 ですからこうした特約がある場合は、借り主が自分で修繕するか、または大家さんが修繕してくれないまま住み続けるかを選択することになります。

 この場合も、借り主の不注意や故意で損傷したようなときは、借り主負担で修繕することになるのは変わりません。

すべての特約が、制限的に解釈されるのですか。

 そうではありません。特約の意味をよく理解して契約が結ばれた場合は、特約どおり解釈されます。大家さんや間に入った不動産業者が、借り主に対して特約の意味をよく理解できるように説明し、それを借り主が理解して承諾したといえる場合に限るので、実際にはまれだと思います。大家さんに「近所の慣行だから」と特約を押し付けられたような場合は、負担する義務は生じません。

 また、借主が理解してなされた特約であっても、常識で考えて借主にとって酷な場合は公序良俗に反し特約は無効となります。

実際に理解して特約を結んだかどうか、どうやって判定するのですか。

 「言った」「言わない」の水掛け論になることは確かにあります。その場合も、粘り強く契約当時の状況を思い出すしかありません。

借主は払い過ぎた敷金を取り戻せますか。

 借主は敷金が過払いであること及び借主が過払いであることについて勘違いしていたことを主張して、大家さんがこれを認めて返金すると解決しますが、お金が動いたあとのやり直しは簡単でありません。話し合いで解決できなければ裁判することになります。

 貸主に対する請求は不当に利得した敷金を返せということになりますので、敷金の過払いの時点から10年経つと時効により消滅します。

 通常の使用か否かを分けるポイントとして、具体的には次のようなものがあります。参考にして下さい。

通常の使用の範囲内で借り主が費用負担しなくて構わないと考えられるもの

 タバコのヤニ→ハウスクリーニングで除去できる程度のヤニ汚れ

 テレビ、冷蔵庫などの後部壁の黒ずみ(いわゆる電気焼け)→生活していくうえでの必需品である電気製品を使っていた電気焼けは通常の使用

 壁に貼ったポスターや絵画の跡の壁面の変色→変色は日照などによる自然現象なので通常の使用

 下地ボードの取り替えが不要と思われる画鋲・ピンなどの穴→ポスターを壁に掛けるのは通常の生活で当然考えられる

借り主の責任が問われる可能性があるもの

 引越し作業で生じた壁や床の傷→借り主の注意義務違反にあたる

 フローリングの色落ち→借り主の不注意で雨が吹き込み、色落ちした場合などは注意義務違反になる

 飲み物をこぼしたためのカーペットのしみ、カビ→飲み物をこぼすことは日常ありうるので通常使用だが、その後の手入れ不足などで生じたしみやカビの発生は借り主の負担になることも

 結露を放置したためのしみ、カビの発生→結露自体は建物の構造上の問題だが、結露が発生しているのに大家に知らせず、ふき取りなどの手入れを怠ってしみができたり、カビが出た場合は、通常の使用を超えたと判断されることが多い






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