現在位置:asahi.com>住まい>ここが知りたい> 記事 PR 注目マンション情報管理組合の理事長が不当に利益を得ているとチラシを配るのは名誉毀損ではないのでしょうか。2007年04月28日 弁護士・田中峯子さん 【質問】私のマンションは20年を経過し、以前から理事の半数と理事長との対立、管理会社との対立が激しく、静かに暮らそうとしてもどちらかの派に属するように仕向けられ、心安らかに暮らせません。 総会前になりますと、一部の人が理事長が管理会社と共謀して不当に利益を得ていると書いたチラシを配ったりしています。これは名誉毀損(きそん)にならないのでしょうか。 【答え】マンションの理事の中で争い事が起こったり、管理会社を中傷したり、理事長排斥運動を起こしたり、まるで戦争の場となっているマンションが見受けられます。 確かにマンションは多くの人が集合して住居する場でありますから、年齢、職業、性格、ものの考え方はそれぞれ異なると思いますが、何とか話し合って譲り合う精神を持ち、最後は総会によって多数決で決定する以外に方法はありません。マンションの理事会の円満な運営やマンションの管理などを円滑に進めるために次のような注意を守るべきと考えます。 (1)法律、規約に従って手続き(理事会や総会の決議など)を公明正大にし、違反しないように心がけること。 (2)自分では正しいと思っていても、ある程度確実な証拠を握らない場合にいたずらに疑いを他人にかけないこと。 (3)役員、管理会社も特に金銭にかんすることは常に公開し、クリーンな姿勢を示すこと。具体的には長期修繕工事は役員の関係する会社に依頼しないこと。 (4)隣地に建つ建物による日照権の侵害や騒音に対する賠償金の交渉には、役員が関与することについて十分な合意を得てから行動すること。 【質問】よくわかりました。確かにそのようなことはマンションでは特に注意しなければなりませんね。しかし、私のマンションではそのような注意事項はもう通り越して、中傷合戦になっています。 つまり相手方を一方的に中傷するのは名誉毀損に当たらないのでしょうか。 【答え】名誉毀損行為については、刑事事件としての名誉毀損罪(刑法第230条)と民事事件としての不法行為にもとづく損害賠償事件に分かれます。 刑法第230条は、一項『公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。』となっています。 民事事件における名誉毀損が成立するかどうかについて、いくつかの裁判例が参考になります。 まず最高裁判所の判決には、「名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、同行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのは相当であり、もし、同事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、同行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解する」と判断されました。(最判昭和41・6・23(判時453号29頁)) 【質問】よくわからないのですが、もっと具体的な例はないですか。 【答え】類似の事案を紹介しましょう。 (1)あるマンションで、一区分所有者が管理組合総会の席上、理事長の名誉を毀損する内容の文書を配布しました。その文書には「従来の自主管理の方法は独善的、威圧的で、他の組合員の意見を取り入れず、このことからすると理事長らがなお自主管理方式の継続を強く主張するのは、それにより理事長らが何らかの私的な利益を追求しているからではないか」と書かれていました。 この行為が不法行為にあたるかどうかが裁判となりましたが、同判決は、「外形的には理事長の名誉を毀損する。しかし、本件文書の作成配布は本件マンションの管理のあり方ないし次期理事長の選挙に関するという公共の利害に関する事項に関して、もっぱら公益を図る目的でなされたものと認められる。そして、次期理事長の選挙に関していえば、候補者に関する批判は、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り許されるというべきであるところ、本件記載部分は、作成者が理事長らに不法行為があるとしてその事実を他の組合員に知らしめようとすることに主眼があるものではなく、従前の理事長の管理行為及び自主管理方式への批判、論評を主題とした意見表明であると認めるのが相当である。そして、本件文書全体を見るとき、上記記載部分が論評の域を逸脱しているものとは認め難く、また、その前提事実はいずれも主要な部分において事実であるということができる」として、不法行為の成立に必要である要件の違法性を欠くものと判断しました。(横浜地判平成9・5・9) (2)次に、管理会社Aはこのマンションから管理委託を受け、また同マンションのちょっとした工事を請け負っていました。ところが同マンションの区分所有者であるBが管理会社Aの名誉及び信用を毀損したとして、A社はBに対し、不法行為に基づく損害賠償と謝罪文の配布を要求して裁判を提起しました。 その裁判でBは、〈1〉「A社は登録専門工事(塗装・防水)業者ではないのに、管理組合の一部の理事と結託して、マンションの立体駐車場建設などの工事を受注し、管理組合と管理委託契約を締結した」〈2〉「A社の内容は、当管理組合の預金証書と、それに使用できる組合の印鑑を一緒に預託できるほどの会社内容ではない」という内容の文書を作成し、各戸に配布しました。 東京地方裁判所は、A社の請求に対し、「本件文書の記載内容の〈1〉は、A社の工事受注業者の適格性に問題があるかのような印象を与えるものであり、また、A社が管理組合の一部の理事と結託した独占的に巨額の工事を受注し、A社を不当に利するような不公正な過程により本件マンションの管理会社に選定されたかのような印象を与えるものであって、同記載のある本件文書の配布により、A社に対する社会的評価を低下させるものである。」とまず判断しました。 しかし、「同記載部分は本件マンションの管理組合の運営という公共の利害に関する事項にかかるものであり、Bは真摯(しんし)に管理組合のことを考えて本件文書を配布したものであり、私利私欲を図りあるいはA社をことさらに誹謗(ひぼう)中傷するなど、不純な動機により本件文書の配布を行ったものではないから、本件文書の配布は、もっぱら公益を図る目的に出たものというべきである。」「また、C社が本件マンションの管理会社であったころからA社はC社を補助する形で本件マンションの管理業務に関与し、A社の社員が原則として理事会の審議に立ち会っており、A社と本件管理組合とは密接な関係にあったこと、A社は理事会に対して無料で本件マンションの長期修繕計画案を示し、立体駐車場建設工事に関する〈御見積書〉との表題の書類を提出し、費用の概算を示すなど、修繕計画立案に過大とも受け取られる協力をし、その過程においてはA社と競合する他の業者の関与はないことなどの事実に鑑(かんが)みると、Bにおいて、一部の理事によりA社に対する利益誘導行為があるのではないかと疑ったことも、まったく根拠を欠くものではなく、Bがそのように信じるにつき相当の理由があったものというべきである。」と判示し、A社の請求を棄却しました。(東京地判平成7・11・20判時1562号83頁) 名誉毀損の成立はなかなか難しいようです。 ここが知りたい バックナンバー
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