現在位置:asahi.com>住まい>ここが知りたい> 記事 PR 注目マンション情報建物賃貸契約の敷引特約の効力2007年09月15日 弁護士・安彦和子さん 【設定】家賃月11万円で借りていたマンションを契約満了で明け渡したところ、賃料等滞納分、原状回復費用および損害賠償費用を敷金から差し引くことができる、という敷引特約に基づいて40万円から30万円が差し引かれて10万円しか戻ってきませんでした。私は普通に使用していましたし、未払い金などがないので納得できません。このような敷引特約は問題ないのでしょうか。
【質問】敷引特約とはどういうことですか 【答え】建物賃貸契約するに際して、契約終了時に敷金を返還しないとか、敷金から一定金額を差し引くことができるなどという旨の特約をいいます。
【質問】敷引特約に問題はありますか 【答え】問題にならない場合と問題になる場合があります。
【質問】どういう場合が問題になりませんか。 【答え】それにはまず、家主と借り主の本来的な義務と敷金の性質について理解する必要があります。 家主の義務は、借り主が通常の使用が出来るのに適した状態で建物を使用させなければなりません。したがって貸している期間中に通常の使用に適さなくなった場合は修繕する義務があります。 他方、借り主の義務は、建物使用の対価として家賃を支払わなければなりません。使用管理については自分の物であれば乱暴に取り扱っても、壊すことも自由ですが、他人の建物については気をつけて使用管理しなければなりません(善管注意義務) 善管注意義務違反(債務不履行)によってドアを壊したり、天井に穴をあけたなどによる損害については家主に賠償金を支払わなければなりません。 敷金は借り主が家主に対して支払うべき家賃とか損害賠償費用などの支払いを確保するために交付するものですから、家主は契約終了のとき借り主の未払い金があれば敷金から差し引いて残金を返還し、未払い金がなければ敷金全額を返還することになります。 敷引特約が、借り主の本来支払うべき費用の不払い金について敷金から差し引くという内容であれば問題ありません。
【質問】どういう場合が問題になりますか。 【答え】借り主に支払い義務のない費用を差し引くという敷引特約が問題になります。この場合の敷引特約については次のような性質があると解されています。 (1)賃貸建物の修繕費用 (2)リフォーム費用 (3)賃貸借契約更新料免除の対価 (4)契約終了後の次の契約締結までの空室賃料 (5)賃料低額に対する代償金
(1)については自然損耗による修繕は家主の義務で借り主の義務ではありません。 (2)については、借り主に貸した当時の状態にするか、または次の賃貸に備えて貸した当時以上の状態にするものと思われますが、これらの費用は借り主の義務ではありません。 (3)については、事実上、義務のない更新料を借り主に支払わせることになります。 (4)については、借り主が空室の賃料を負担する理由はありません。 (5)については、賃料が実際に低額であること、家賃の低額の金額と敷引金額とが相応しなければ、取り過ぎの分が家賃の二重取りになります。 このように(1)〜(4)および(5)の家賃の二重払いとなる場合の敷引はいずれも借り主の義務ではありません。
家賃は借り主の通常使用による自然損耗、建物の経年劣化、空室状況など、おおよそ予測できることを総合して決めるはずです。 したがって家主が予測しうる事項の費用については家賃の中に織り込み済みと解されます。 前述の(1)〜(4)および(5)の二重払いとなる費用を敷金から差し引くことは借り主にとって不利な内容の特約となるので法律上問題となります。
【質問】法律上の問題とはどういうことですか。 【答え】「消費者契約法」という法律があります。この法律は、一方が業者、他方が消費者の契約について適用があります。 業者と消費者とでは、契約知識についても、交渉力についても大きな格差があるので、この格差のある状況下で締結された契約について、場合によりますが契約を取り消したり、あるいは消費者の義務を加重して消費者の利益を一方的に害する条項などを無効とすることにより消費者を保護しています。 敷引特約についていえば、支払い義務のない費用を敷金から差し引くという条項は借り主に本来の義務を加重し、借り主の利益を一方的に害する条項といえます。 先般来、こうした敷引特約についても消費者契約法(10条)により無効とする裁判例がいくつも出されています。
【質問】ご相談の件はどのように考えられますか。 【答え】ご相談の敷引特約は業者(家主)と消費者(借り主)間の契約ですから、消費者契約法が適用されます。 ご相談者は建物を通常に使用していたということであり、未払い金もないということですから、敷金から差し引かれた30万円は原状回復費用としか考えられません。 原状回復費用は家主が負担すべきであるのに、借り主に負担させるということになりますから、消費者である借り主の義務を加重して借り主の利益を一方的に害する条項として無効と解されます。
【質問】敷引特約について借り主が納得していた場合はどうなりますか。 【答え】借り主が、本来家主が負担すべき費用を借り主が負担すべきこと、およびその費用を契約終了時に敷金から差し引かれることを正しく理解して敷引特約をした場合は納得して契約したと解されるので無効とならないでしょう。 ここが知りたい バックナンバー
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