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各家庭に必ずあると言っていい程、所有率の高いラクレット・マシーン |
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ジャガイモやピクルス、トマトなど、好みに合わせてチーズと一緒に |
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やっぱりラクレットは男の仕事 |
スイス・大野エグル瑠衣子(ロノエ改め) 家具と家電
牛と羊たちの気配を辺りに感じつつ、足早に家路に向かう。温かい、オレンジ色のランプの光がこぼれる我が家。玄関を開けると、鼻腔(びくう)いっぱいに広がるチーズの香り……。というのは民話のひと幕ではない。これは紛れもないスイスの現実である。そんな「超ド級の田舎にしかありえなさそうなこと」が都市のそこここで起こりうる(もしくは実際に起こっている)のがスイスであり、それがこの国の持つ魅力でもある。
そんなスイスに欠かせない家庭電器製品がラクレット・オーブン。「ラクレット」とはスイスの三大家庭料理のひとつであり、簡単に言うとチーズを溶かして野菜やパンの上に掛けたもの。そしてラクレット・オーブンはラクレット用のチーズを溶かす専用器具である。
器具はL字をひっくり返したような支柱に受け皿のようなものがついているというシンプルないでたち。スイッチを入れると逆L字の天井部分が暖まり、受け皿に置いたチーズの断面を溶かす。5ミリほどチーズが溶けたところで用意しておいた野菜の酢漬けや白パンの上にナイフで落とし、いただきます、というわけだ。
また、庭に電気コードを引っ張ってきて青空ラクレットを楽しむ光景も日常的である。物価の高さゆえ外食の習慣のないスイス人にとって、自宅でいかに食を楽しむかということは人生の重要な位置を占めている。そのためラクレット・オーブンのようなラクレット意外に用を足さない家電であっても、高い保有率を維持しているのだ。
ただひとつ、ラクレットをする際に問題になるのは、誰が「溶かし役」になるかである。ラクレットはチーズが皿に降りた瞬間に食べるのが礼儀。そうでないとおいしく頂けないからだ。そのためチーズを溶かす役の人間は、ひとりひとり順番にラクレットを配り終えるまで食べられないことが多いという、何とも損な役回りである。
ラクレット用チーズはもとが大きく重量であり、かつ片手作業を要するため、力のある男性陣に役が回ることが多いが、ムッテル(スイスドイツ語で「母」の意味)たちもまた、ヒョイと片手で持ち上げてしまうのだから頼もしい。そして彼らの溶かすラクレット・チーズは素朴で、温かみがあり、舌がとろけるほどおいしいのだ。
チーズ・フォンデュで名高いスイスだが、是非ラクレットにも挑戦して頂きたい。スイス・チーズを味わうにはお薦めの一品である。