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「世界のウチ」

おしんは健在、海を越えてもけなげです!

2007年11月14日

ベトナム・松野泰子 海の向こうのジャパネスク

 橋田壽賀子原作のNHK連続ドラマ「おしん」が、ベトナムのお茶の間を賑わしたのは、今から10年以上前。それ以来ベトナムでは「OSHIN」はお手伝いさんを指す普通名詞となるまでに出世した。身を粉にしてせっせと働くおしんが、ベトナムの人の心を捉えたのも不思議ではない。しかし、なぜこの言葉が独り立ちしたかといえば、実際にベトナムのウチにはOSHIN=お手伝いさんが溢れているからなのだ。

写真とある家庭のOSHINちゃん。住み込みで働き、掃除、洗濯、毎日の買い物を担当。お料理は奥様に教えてもらいながら。
写真個室も与えて貰い、食事は家族と一緒に食べる。働きはじめて2年たった今では家族のような存在。

 ベトナムではお手伝いさんの給料がかなり低いこともあって(月額約5000〜7000円程度)、一般家庭でも、掃除・洗濯・炊事・子どもの世話などあらゆることを手伝ってくれる人を雇うことは少なくない。

 私がベトナムに来て最初に住んだ外国人専用の安アパートにも、OSHINはいた。毎日せっせと各部屋の洗濯物を集め、ときおり勝手に鍵をあけて部屋に入って床掃除までしてくれる。

 自分が家に居るときにOSHINちゃんと鉢合わせ(?)すると、何となく落ち着かないので、「もう掃除はいいからさ」とお喋りに花を咲かせた。まだ20歳そこそこに見えるOSHINちゃんはどうも遠い田舎に乳飲み子をおいて出てきたシングルマザーらしかった。まさに「おしん」的な苦しい条件の中で仕事をしていた彼女だったが、いつも笑顔で明るく、冗談も言うチャーミングな女性だった。そんなOSHINちゃんが、ある日神妙な顔で言った。

 「ねえ、日本でOSHINをしたら、幾らくらい稼げるかしら?」

 「え? 日本に行きたいの? でも、お子さんだっているんでしょう……」

 「ベトナムにいたって子どもに会いに田舎に帰れるのは年に1回。それなら日本だって同じよ。たくさん仕送りが出来る方がいいもの」

 「言葉は?」

 「この仕事に言葉はいらないでしょ?」

 彼女のあまりの度胸のよさと、懸命さに胸がつまった。帰省の旅費を節約するため年に1度田舎に帰れるかどうかという彼女が、まさか外国に行こうと本気で考えているとは……。

 だが残念ながら、日本にはOSHINシステムそのものが無くなってしまっている。日常的にお手伝いを雇いたいという人はそういないし、しかも共通言語がない人を住み込みで雇いたいと思う人など、まずいないだろう。

 やんわり説明してもOSHINちゃんはきょとんとしている。冗談ばっかり、というように笑って言った。「だって、おしんちゃんはあんなに働いてたじゃない?」

 家族のために少しでも多く稼ぎたいと真剣に願う姿に、私はそれ以上どう説明すればいいかわからなかった。何より外国人のお手伝いさんでは滞在ビザすら出ない。

 おしんが生まれた国ではもうOSHINは居ない。でも海を越えたところでOSHIN精神を持ったOSHINちゃんは今日も必死で働いている。


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