2008年3月5日
アンデスの携帯かまど。これは子供のおままごと用の、小さなもの
かまどといえば、ふつうは台所にでんと作られた、古風な煮炊き用の設備のことである。でもペルーには、持ち運びができる「携帯かまど」という便利なものがある。素焼き製で、下に薪の差し込み口があり、上にはお鍋を載せる穴が、二つか三つあいている。たったそれだけの簡単な作りだ。
レンガ製の本格的なかまどと比べると、携帯かまどはずっと小さく、火力もはるかに劣っている。けれどアンデスの場合、一家の主婦は、必ずしも強い火力を望んではいない。中には森林限界を超えた地点で暮らす人もいるが、そういうところでは、貴重な燃料を、強い火力で無駄に燃やすことは絶対しない。ぶすぶすとくすぶる程度の弱い火を大切に使うのが、常識となっている。
また調理の都合上も、とろ火のほうが高地には合っている。たとえばインカの古都クスコは標高が3400メートルもあるので、水は理論上80度台で沸騰する。そんな高地でお米を炊くときは、もし圧力鍋がないなら、弱火でじっくり熱を通すほかない。ふつうに強い火力で一気に炊いたのでは、芯が残ってしまうからだ。
そんなわけで、一見おもちゃのように頼りない、火力も弱い携帯かまどは、アンデスのたくさんの家庭で愛用されている。利点はほかにもあり、作りつけのかまどなら、灰だらけの内部に頭をつっこみ、むせながら掃除しなくてはならないが、携帯かまどならとても簡単。かまど本体をひょいと持ち上げ、下に残った灰を集めるだけで済む。もちろんその灰も、家のまわりの畑の肥料として有効利用できる。
また、この携帯かまどを使って、毎日簡易レストランを店開きする、働き者のお母さんもたくさんいる。家族が畑や学校に出かけたあと、手際よく作った鍋いっぱいのジャガイモスープと、携帯かまどと、少々の炭、それにありあわせの食器を風呂敷に包み、市場に出かけて腰をすえれば、開店準備完了だ。携帯かまどで温められたスープが、おいしそうな香りをあたりに漂わせるので、お昼どきになれば、おなかをすかせた近所の人が次々と立ち寄り、スープはすぐに売り切れてしまう。
その売り上げで、お母さんは自宅の畑ではとれない食材、たとえば薬味のトウガラシや、たまねぎなどを買って帰る。そして夕方には、ふたたび携帯かまどに火を入れて、今度は家族のために、おいしいスープを作るわけである。